「ね、ねえ、名雪?」
「………ん?」
お昼ご飯食べて、眠くなってうとうとしかけていたわたしに声をかけてきたのは、友達のわたるちゃんだった。
ちょっと落ち着かない感じで、机の前に立っている。
周りを気にしているような、何か迷っているような…どうしたんだろ?
わたしが不思議そうな顔してると、わたるちゃんは困ったように手をもじもじさせながら、
「あ、あのね…昨日ね、相沢君がね………」
わたしにだけ聞こえるように小さな声で言った。
「祐一?」
「うん…」
祐一が、どうしたんだろう?昨日?いじめられた、とか…
あれ…でも昨日って日曜日だよね。
なんだか話しづらそうだからあんまりいいことじゃ無さそうな気がするけど。
「あたしね、見ちゃったの…相沢君が、女の子と一緒に歩いてるの」
え?
祐一が女の子と一緒に歩いてる?
わたしは首をかしげる。
「えっと………それで?」
わたるちゃんはびっくりしたように目をぱちぱちさせる。
「それでって…名雪、相沢君と付き合ってるんでしょ?気にならないの…?」
わたしのほうも、そんな反応に戸惑ってしまう。
気になるって………
「あ、祐一があんまり女の子いじめたりしないようにちゃんと見張っとけ…って事かな?」
「そうじゃなくてっ。その…浮気、してるかもしれないんだよ…」
言いづらそうに言葉を詰まらせながら、それでもどこか必死な感じで言う。
「えと…キスしてるとこでも見ちゃった、とか?」
「キ……そ、そそそんなっ!とんでもないっ…あ、あの、でも、とっても仲良さそうで…」
わたしは困って頬に手を軽く当てて、訴えかけてるわたるちゃんのほうをとりあえず眺めてみる。
つまり、わたるちゃんが言ってるのは。ええと。
昨日祐一が女の子ととっても仲良さそうに歩いてたのを見た。
ってことだよね。
うん。わたしもよく見るよ。
「一緒に歩いてたっていうか…お買い物してたんだよ。あのね、綺麗な人で…年上のお姉さん、って感じの人で…あ、あとすごくボリューム満点のおさげが特徴的で…っ」
「あ、それお母さんだ」
「うん、お母さ………………………………………………え?」
わたるちゃんは何か言葉を続けようとして固まる。
「わたしのお母さん、若く見えるんだよ〜。よく姉妹だって間違われるもん」
「ち、違うって。絶対違う人だよっ。本当に…せいぜいハタチくらいって感じの…」
「わたるちゃん…あのね、お母さんに関しては世間の常識的感性は当てはめないほうが…いいよ?」
って言っても、無理かもしれないけど…
わたしはずっとお母さんと一緒だからもう何も思わないし、香里も慣れているから普通に受け入れてるみたいだけど、やっぱり初めて見た子はショック大きいかも。
「…お…お母さんって………嘘………」
「まあ、その気持ちはよく分かる。俺もこの街に戻ってきた当初はつくづく」
あ、祐一。
何時の間にか教室に戻ってきてたみたい。
「もしこの街の七不思議ってのがあるのなら間違いなく秋子さんはそのひとつだな」
「というか、お母さんの七不思議って感じだよね」
呆然としているわたるちゃんを横目に、しみじみと祐一が頷いている。
「あ、あの…相沢君っ」
「な…何だ?」
いきなり慌てたように食いつくわたるちゃんに、祐一は戸惑う。
どうしたんだろう?顔、真っ赤だけど………
わたしと祐一、二人でわたるちゃんの次の言葉を待つ。
「あの………」
「おう」
「………親子丼」






「幸せの捧げ物」 〜ラブラブなゆちゃん劇場番外編2〜






実際わたしも、びっくりしてる。
祐一があれから7年経ってこの街に戻ってきたら、不思議なくらい女の子にモテモテなんだもん。
それもみんな可愛い子ばっかり。どういうわけなんだろうね?
もちろん祐一の態度にも理由があるのは間違いないんだけど…お母さんと一緒に買い物してるのが人から見たら(わたるちゃんだけかもしれないけど)恋人同士みたいに見えるっていうくらいだから。
女の子相手でもあまりに遠慮が無いというか…なんだろう。
平気な顔で部屋の中に入り込んで物をあさっているような感じ?

今でも、女の子と一緒に楽しそうに話してたり一緒に遊んでたりするのをよく見るよ。
でも、でもね。
ちょっと自慢してもいいかな?
わたしを見る目だけ、わたしと一緒にいる時だけ、やっぱり違うんだよ。
冷たいこと言ってるときでも、意地悪なときでも、あ、やっぱりすごく大切にしてくれてるんだなって思えるんだ。
それに…えへ。みんなあんまり知らないんだろうね。いつも人のほうに無遠慮にずかずかと踏み込んでくる祐一が、実は逆に踏み込まれるのに弱いって事。
本当はとってもカワイイ所があるって事♪
わたしだけしか知らない事、いっぱいあるんだよ。

祐一の事狙ってる子はいっぱいいるみたいだけど。
ダメだよ、誰にも渡さないからね。
だって祐一は約束してくれたから。これからずっと毎日でも朝起こしてくれるって…
…それなら、ずっと寝坊が直らないままでもいいかな…なんて。えへへ………


大好きだよ、祐一。
祐一がわたしのことを想ってくれているのに負けないくらい………






「か〜〜〜おり〜〜〜〜〜〜っ」
ちょっと遠いから、大き目の声で呼んでみる。
香里の姿は、わたしと祐一が歩いているところよりもっと前…橋の向こう側に見つけた。
遠いし後姿だけど、わたしは香里だってすぐわかった。あの特徴的な天然(たぶん)の髪のウェーブと、あと、歩き方と、それから雰囲気。
親友だもん。間違えないよ♪
でも…聞こえるかな?ちょっと遠いかも。
「お前、声でかい…恥ずかしい奴だな………」
とか思ってたら隣で祐一がちょっと小さくなって文句を言ってくる。
うーん…あんまり人いないんだから、そんな気にしなくてもいいんだけど…祐一、照れ屋さんだね。今に始まった事じゃないけど。
あ、香里が振り向いて止まっている。ちゃんと聞こえたみたい。
じゃ、あんまり待たせてると悪いからちょっと速歩きしよう。
ちら、と祐一のほうを確認してからペースを上げる。
祐一も苦笑しながらちゃんとついて来てくれる。
うんうん。以心伝心。
…当たり前かも。
たっ…たっ………
乾いた地面を蹴る音が鳴る。雪の上を歩くときと違っていい音だ。
冷たい風を体で切りながら速歩きするうち、だんだん走りたくなってくる。気持ちいい。
でももう香里は目の前で、今走ったら確実に抜かしてしまうわけで。
それもちょっと面白いかも。香里どんな反応するかな?
なんて考えている間にもう香里の隣。
「おはようっ」
「おはよう。………あんた、声でかいわよ」
わぁ。
最初の一言で祐一と同じ事言われた…。
やだなぁ、祐一に勝ち誇られちゃうよ。「ほらみろ」とか言って。
「………ふっ」
ああっ、何も言わないで笑った〜!
それはそれで悔しいっ
「今日も割と早いわね…思ったより頑張るじゃない」
香里がちらりと腕時計を見て言ってくる。
走らなくてもまだまだ十分余裕がある時間だ。
「正直どうせ三日も続けばいいほうだって思ってたけど…大したものね」
「頑張ってるよっ」
香里に褒めてもらって喜んで威張ってみる。
わたしが祐一と一緒に「これからはゆっくり登校する」って香里に宣言してから一週間。
ずっと守り通してきたのだ。えへ。
凄いでしょ?一週間も続くなんて…
「別に凄いことでもないし、どっちかって言えば頑張っているのは俺のほうだ」
………あぅ。
祐一が余計な事を言う…
「いいじゃない。相沢君も毎朝公認で可愛い寝顔見られて幸せでしょ?」
「何っ………い、いや…毎日見てたら見飽きるさ、そりゃ」
あ、動揺してる。
可愛い寝顔だなんて………香里ったら。いい事言うんだから〜
わたしは見たことないからちゃんと可愛く寝てるかどうか知らないけど。
…ちょっと不安。
「ねえ祐一、わたしの寝顔って可愛い?」
ずだんっ!
…わ、凄い音だ………
この辺の地面レンガ造りだから時々地面出っ張ってるところあるんだよね。気をつけないと。
それにしてもここまで思いきりこけた人、初めて見たよ。
顔から地面に当たったみたいだけど、大丈夫かな?
「…大丈夫?痛い?手貸してあげようか?」
「お前が変な事言うからだっ!!」
ん?変な事?
「相沢君…いい加減名雪のキャラってものが分かってきた頃でしょうからちょっとは慣れなさいよ」
え?何?
香里まで何かわたしの事変みたいに言ってない?
祐一は疲れたようにのっそりと立ち上がる。
「こいつ…分かってないし………」
「何が?」
「あのね、名雪。相沢君はそういう事は二人きりの時に聞いて欲しいって言ってるのよ。あたしが一緒にいる時じゃ恥ずかしくて言えない事だってあるじゃない」
疑問に思ってるわたしに、香里が丁寧に説明してくれる。
あ、なるほど…
祐一ってそういうの気にするからね。
納得。今度二人だけの時に聞こう。
「……って、違うだろっ!論点が微妙にずれてるっ!名雪がストレートに信じてるっ!!」
とか思ってたら祐一がなんか騒いでる。
照れてるだけだろうけどね。ふふ。
「あたしの事は気にしなくていいから思った通り言ってくれていいのよ?」
「そうじゃなくて………」
せっかくの香里の優しい言葉にもなんか祐一は不満そう。
もう…仕方ないなぁ。
「そもそもそんな事を聞くこと自体………な…名雪?」
とりあえずじっと見つめてみる。
見つめてみる。
見つめてみる。
「はい、相沢君、どうぞ」
香里が、あんまり人に見せない笑顔で祐一に迫る。
「い、いや…だからな………」
「………」
「………う」
わくわく。
「…そんなの」
小声で、ぽつりと。
「そんなの?」
香里がちゃんと聞き取れるように顔を近づける。
祐一はそれを避けるようにまっすぐ前に向き直る。
「そんなの、寝顔だけじゃなくて全部可愛いに決まってるさ…」
「………」
「………」
わぁ。
「相沢君…あたし、先行ってるわね」
「ま、まあ、待てって。俺だって恥ずかしいんだ…行かないでくれっ」
祐一………可哀想なくらい小さくなっちゃって。
うーん。
そんなに恥ずかしいならそこまで言わなくてもって思ったり…したら祐一怒るかな?
でもこんなとこで必要以上に正直な祐一が好きだよ♪
「祐一…ありがと」
「お…おう」
祐一は明後日の方向を向いたまま生返事を返す。
わたしはなんとなく覗き込んでみる………
「やっぱり先行ってるわ」
ああっ、待って香里〜っ
はしっ。
制服のはしっこゲット。
「…あたしがいたら邪魔でしょ?」
「邪魔じゃないよ〜っ。もう………祐一が変なこと言うからっ」
「お、俺!?」


「祐一さん、おはようございますーっ」
ん?
横のほうの道から誰かが祐一の名前を呼んだ。
顔を向けてみる…
うちの制服着た女の子が二人近づいてくる。
二人とも知らない子だ。あとリボンが青いから、3年生だね。
一人はなんでそんなにってくらいにこやかでもう一人は無表情で、対照的な二人。
誰だろう?また祐一の”お友達”かなぁ?
「おはよ、佐祐理さん………舞」
んと…とりあえず名前は佐祐理さんに、舞さんね。
って、先輩を名前で呼び捨てなんて、さすが祐一だぁ〜
一応香里のほうを見てみるけど…香里も知らない人みたいだ。きょとんとしている。
そのまま二人はこっちのほうに来て、自然に合流する。
「おはようございますー」
先輩がわたしたちのほうを見てぺこっと頭を下げて挨拶する…
…って、わわっ
「おはようございますっ」
ど、どうして先輩なのにわたしに丁寧語なんだろう…そういえば祐一にも………
「あ、そうだな。紹介するか…まずこっちが」
祐一が気付いたようにわたしのほうを掌で差す。
「水瀬名雪。俺のいとこで、俺はここのうちでお世話になっている」
「あ…名雪さんですかー。いつも祐一さんからいろいろ伺っておりますーっ♪」
わたしの名前を聞いた、元気なほうの先輩がすぐに反応する。
いろいろ聞いてる?わたしのこと?
それは………気になるなぁ
「いつも自慢されてるだけあって本当に可愛いですね〜」
自慢?
「あ、さ、佐祐理さん。それはまあともかくとしてっ」
「祐一、わたしのことなんて言ってます?」
これは聞かなきゃね。
「おい名雪………」
―――”俺が手に入れた天使だ”」
と、ぽつりと、今まで黙っていたほうの先輩…消去法で行けば舞さんが呟く。
「………」
「………」
なんとなく、みんな黙ってしまう。
わたしも…
「ゆういち…」
「つ、次っ。クラスメイトの美坂香里だっ。よろしくなっ」
「あんたが何をよろしくするのよ…初めまして、先輩方」
祐一、そんなこと言ってたんだ………
天使。天使だって。
えへへ…
「よろしくおねがいしますね〜」
恥ずかしいなぁ、もう。
わたしのいないところでそんな…嬉しいな♪
「それでこっちは…えーと……あー…佐祐理さんと、舞だ」
「あははーっ、祐一さん、名字覚えてませんねー?」
まあわたしも…祐一が帰ってくる前とか、香里にいろいろ話してたけどね。
わたしが天使なら、わたしにとって祐一は…何だろう?
うーん………

とか考えてる間にもうすぐ学校だ。
結局そのまま先輩達と一緒に来ちゃった。


「あっ、名雪、おは………………げ」
んん?
校門の前で妙な挨拶をかけてきたのは…わたるちゃんだ。
おはげ?
何かこっちのほう見てびっくりしてるみたいだけど…
「おっはよー」
「よ、おはよう」
わたしと祐一の挨拶が被る。
「あ、あ、相沢君…っ」
わたるちゃん、なんだか慌てたように祐一の名前を呼ぶ。
顔を赤くして…って、昨日もなんか同じような場面があったような。
祐一もまた不思議な顔をして見つめている。
「あ………朝からハーレムだね…っ」
だだだっ!!
それだけ言うと凄いスピードで玄関まで走り去って行っちゃった………
いきなり静まり返る。
「…名雪…なんなんだ、あいつは」
え、えっと〜
「…陸上部に欲しいかも」
わかっている。
たぶん祐一もわかっている。
ちら、と祐一のほうを…その周りを見てみる。
祐一と、わたし含めて女の子4人が、一緒に登校している―――
「勝手にあたしまで組み込まないで欲しいわ」
香里が小さくはっきりと言った言葉が、妙によく通った。


「おはようございます、相沢さん」
玄関でもまた一人。
3年生の二人と別れた直後にまた声を掛けられた。…祐一に対して。
今度は見てみると、1年生の制服を着た女の子だ。
祐一って、凄いね…ある意味………
「うっす、おはよ」
「あの―――
その1年生の子は、祐一に少し声をかけて、ちらっとわたしのほうを見る。
ちなみに香里はこの辺のやりとりを完全に無視してもう靴を履き替えて先に行ってしまった。
「相沢さん、今日のお昼休み空いてますか?」
「え…ああ、特に予定はない……が…」
今度は祐一がわたしのほうをちらっと見る。
むぅ。
無言のメッセージを受け取ったわたしは、とりあえず右手で「まる」を作ってみせる。
祐一はちょっとすまなさそうな顔をしてまた向こうに向き直る。
まあ…お昼いっしょに食べるのはいつでも出来るからね。この子の表情真剣だからきっと大切な用事なんだろうし。
うぅ。自分に言い訳してるわけじゃないよ?
「では、またあの場所でお待ちしております」
「ん、わかった」
また。
あの場所。
結構気になるキーワードだよ………
それだけ言うとその子は1年のほうの下駄箱に向かっていった。


なんとなく、呟いてみる。
無意識だったかもしれない。
「今日の朝だけで祐一の女の子3人発見しちゃった…」
「だあっ!!人聞きの悪いことを…というか誤解というか間違いというか気のせいだっ」
ちょっと動揺して祐一が叫ぶ。
なんか後になるほど弱気になっていってる気がするけど。
ふふ。ちょっと面白い。
「わかってるよ〜。祐一が好きな子は一人だけだもんね?」
「お…おうっ。いや…言い切れる名雪も凄いと思うぞ…」
安心したような、まだドキドキしてるような祐一の声。
まだまだわたしを甘く見てるようだね?
「そう…よくわかってるじゃないか、水瀬さん。相沢の本命はただ一人…」
今度は後ろから声が聞こえた。
97%の確率でこの声は北川くんだ。
見てみると、北川くんはいつの間にか祐一の後ろに回って………
…抱きついていた。
「なあ…相沢?」
「お前それ以上何かやったら今日一日保健室で過ごすことになるぞ」
やたらに低い祐一の声に、北川くんは素直にすす…と体を離す。
「ふ…そう怒るなよ。タチの悪い冗談じゃないか」
「タチが悪いって分かってるんならやめんかっ」
その言葉に対してHAHAHAと不思議な笑い声を残しながら、北川くんは先に行ってしまった。
…えーと。
「男の子も一人発見」
「やめれ」
うーん。
でも今北川くん抱きついてるときちょっと嬉しそうだったように見えた気が………
………気のせいだよね。


きーん…こーん………
「お?」
「あれ?」
チャイム。うん。
わたしと祐一は意味の無い言葉を同時に発する。
「なあ名雪」
「うん」
「………走るぞ」



「あれ、今日はお昼ご飯も一緒じゃないの…?」
お昼休み、祐一が教室出て行ったのを見てわたるちゃんが声をかけてくる。
この反応の早さ…もしかして祐一のことチェックしてたのかな…
「うん。用事があるんだって」
「きょ、今日は他の子の日なのかな…」
なんだか妙に気にしているわたるちゃんの言葉にわたしはちょっと笑ってしまう。
「祐一は友達多いから、用事も多いんだよ」
「でも…用事って、今朝一緒に登校してた女の子の誰かじゃないのかな」
「あ、違うよ。また別の子。1年の」
「…女の子?」
「うん」
わたるちゃん、なんか頬押さえて下向いちゃった。
また恥ずかしそうに…目を細めてぼーっとしている。
癖なのかな?
「…わたるちゃん?」
「え!?あ、ご、ごめんね…またちょっと色々妄想しちゃったよ…っ」
………
わたるちゃん、面白い子だね。
「あ…あの、言いにくいんだけど…名雪は、それでいいの?」
もじもじしながらわたるちゃんが聞いてくる。
それでいいって言うと?
「…何が?」
「相沢君、そうやって何人もの女の子と付き合ってるんでしょ…?」
…ああ。
納得。
やっぱり、そう見えるんだろうな…
別にそれ自体は気にしてないんだけど。
「わたしは特別だよ?」
とりあえず思ったとおりそのまま言ってみる。
「わ、すごい自信…で、でも、みんなそう思ってるかもしれないよ??」
「みんなそう思っててもわたしが本当だから」
「………」
絶句してる。
うーん…無理も無いか。ちゃんと説明しないと…
「別に根拠無しに言ってるわけじゃないんだよ」

わたしの、祐一への想い。
祐一の約束。
意地悪な言葉。優しい言葉。

「わたしね…分かるんだよ、昔から。人の想いがどこに向かっているか」
言ってから、ううんと自分で首を振る。
「祐一だけかもしれないけどね。わたしはこの街にいる誰よりもずっと祐一のことを見てきたんだよ」
そう言ってから今度は笑う。
「わたしじゃなくても分かるかもね。祐一、わかりやすいから」
「そう…かな」
「わたし、7年前に一回ふられたんだ」
「え?」
わたるちゃんは驚いてじっと見てくる。
「その時に、いろんな事が分かったんだ。祐一がわたしのほうを全く見てないこと、わたしがどれくらい祐一の事好きなのかってこと」
「7年前に相沢君、こっちにいたの?」
「うん。短い間だったけどね」
わたるちゃんはちょっと机に身を乗り出してくる。
目がちょっと…輝いてる?
「ね、ねえ。良ければその昔の話、聞かせてくれないかな?」
「う…そんなに面白い話でもないよ」
「いいのっ。もう興味満点雨嵐っ」
「う、うん」
内心首をかしげながら、何から話そうか考えてみる。
わたるちゃん、どうしてそんな話に興味あるんだろ…

なんとなく窓の外をちらっと見てみる。
この寒いのに、中庭に二人の生徒…男の子と女の子が立っていた。
また視線を戻す。
わたるちゃんが待っている。
「ちょっと、長くなるかもよ?」



FIN...


【あとがき】

特にコメントすることも思い浮かばないのですが…うぅ。
とりあえず、続きそうに見えますが、ひとまずはこの作品はこの終わり方で終わりなのです。

名雪サイドから祐一のほうを見てみたかったという動機で書きました。
いつも思うのですけど動機っていつも一言で説明できますね(^^;;「ラブラブなのを書きたかった」だとか「こーゆー姉妹を書きたかった」とか…

ではでは。
もしお暇でしたら感想でも送ってくださいませ♪喜んで文京区一周してきます♪