目の前を女生徒が通り過ぎていく。
ちら、とこちらを横目で見る。目が合う。彼女は慌てて視線を外す。
そのまま、なんだか気まずそうにこっそりと歩き去っていった。
「…最近、友達が減っている気がする」
日々強さを増している日光が中庭のほぼ全面を照らす。ちょうど日光が真上にきている時間。まだ気温はそれほどでもないのだが、ここ最近で急激に暑くなってきているため体感的にはそろそろ辛さを感じるほどになってきていた。
ただ、祐一の声が少し上ずっていたのは決して暑さのためではない――という事実に気付く者は少なくともこの場にはいなかった。
この、昼休みの中庭のベンチには。
「ん？」
そんな祐一の言葉に短い返事が返ってくる。隣からではなく、正面から。―――正確には正面でもない。どこか複雑なルートを辿って耳に届いているような感覚。言葉が体の中にそのまま伝わってきているような気がした。恐らくは、比喩表現ではなく。
「まあ祐一ってヘンだしいじわるだし、もとから友達ってあんまりいないんじゃない？」
「………………なあ、もうちょっとこう、直球じゃない言い回しは出来ないのか…？内容的に全否定するつもりもないが…さすがの俺もぐさっと」
「んー…」
名雪はくるっと顔を回して、祐一の顔を真正面から見つめた。何も考えてなさそうな、徹底的に澄んだ瞳。特に悪気があって言ったわけではないことは分かっている…名雪とは、そういう少女なのだから。
ただどんな事でも思った通りの事を言い、思ったとおりの行動を取る、それだけだ。
「祐一はヘンで、かつ、いじわるであるが故に元来より友人は質量ともに大いに不足していると言わざるを得ないと推定され」
「違う」
「遺憾の意を」
「確かに遠回りになっているが、大いに違う」
大マジメに口調を変えて言い直す名雪を一蹴する。
まだ最後まで言い切る前に止められた名雪が少しだけ不満そうな顔を見せた。
「…祐一、友達が欲しいの？」
少し首をかしげるような仕草を見せ――実際にはほとんど動いていないのでそんな雰囲気がしただけのことだが、祐一の表情を伺う。
「いや…取り立ててそんなに欲しいと思っているわけじゃないが…減っていくような気がするというのはさすがにどうだろうと」
「うーん…祐一ってほら、ヘンで軽いっぽい割にどこかなんか重い過去を背負ってそうな雰囲気があるから近寄りがたいってのはあるんじゃないかな」
好き放題言う名雪に祐一は軽く苦笑しながら、なんとなく名雪の髪をそっと撫でた。意味は特に無いが、気がつけば習慣になっていた。
髪に触れる指を感じて気持ち良さそうに目を細める名雪。
一瞬太陽が雲に隠れて、大きな影が庭を覆う。この季節になると昼休みの中庭は弁当を食べる生徒たち…学年も様々に、たくさんの生徒たちで賑わっている。それでもどこもかも満席になるということもなく、例えば祐一が座っているこのベンチは、祐一と名雪以外は誰も座っていなかった。
もう一人、もしくはもう一グループは座れるスペースが空いているのだが。
「…そんな事より、問題はもっと単純な事だと思うんだ」
小さく呟く。
名雪が、祐一の膝の上に乗せたままの頭をごろんと転がして、うにゃあ、と小さく鳴いた。ごろごろと気持ち良さそうに頬ずりして感触を楽しんでいる。
たまたま目の前を通りかかった栞が―――何も見なかったかのように目の前を通過していった。
「主よ、われ汝をより頼む」 〜 ラブラブなゆちゃん劇場４ 〜
「相沢？さあ、どこだろうな…水瀬さんも教室にはいないみたいだし」
「なゆちゃんならホームルーム終わってすぐに教室出てったの、見たけど…」
「あたしも知らないわ。まあ、でも、名雪を探すほうが早いんじゃない？」
―――以上、いずれも、「相沢くんはどこにいますか」とその教室で尋ねた時の返答である。
学級委員の用事で祐一に会いに来た４組の少女は首をかしげ、必ずと言っていい程そこに出てくる名前、水瀬名雪という少女について頭を巡らせていた。
北川とばったり出会ったのは、職員室前のこと。
「お。久しぶりだな、相沢」
「そうだな」
３年になってクラスが変わって以来だった。２年の時「美坂チーム」として付き合っていた４人のうち、北川だけが別のクラスになったのだ。当時はその事を随分と嘆いていたか。
北川は、ふと、不思議そうに周囲を見渡す。何か探すように。というより、探しているのだろう。何かを。
祐一が顔で疑問を表していると、北川は探し物を諦めて…向き直った。
「お前…水瀬さんとケンカでもしてるのか？」
言った。
大マジメな顔で北川が、言った。
「……はぁ？」
思わず素で間抜けな声を返してしまい、後悔する。これはよくない。今の北川の言葉はもしかしたら「さあ、お前の実力を測ってやろう。これにどうノリツッコミを返すかでどれだけ成長したかを判断するぞ。ちなみに平均評定以下なら近所の本屋で”りぼん”買出しの刑だ」というメッセージだったのかもしれない。だとしたら今の返事は間違いなく０点だ。
などと動揺しながら考えていると、北川は渋い表情で言ってのける。
「おかしいじゃないか。お前がいるのにどうして水瀬さんが一緒にいない？…いや、逆だな。どうして水瀬さんのいる所にお前がついてないんだ！？」
ごん。
とりあえず近くの柱で頭を打っておいた。
「お…俺はいつでもどこ行くのでも名雪と一緒かっ！？」
「というか二人で１セットだよな。例えるならほうきとちりとり。もちろんお前がちりとりのほうだが」
「お前な………」
呆れて祐一はため息をつく。
「信じられんな…お前らが別々に行動している所を見る機会なんてもう一生ないと思っていたが、こんなに早く訪れようとは」
何故か悔しそうに唸る。
「実際、どうなんだ。寝るときとか風呂とかも一緒なんだろ？」
ごんごん。
２回、打っておいた。
「んんんんなわけあるかああああぁぁぁぁあああぁぁっ！？」
力の限り叫ぶ。
どうでもいいが（どうでも良くないが）ここは職員室の前である。
声を落とす。
「どこの世に一緒に風呂に入る高校生がいる！？」
「お前ら」
「だああっ！当たり前のように言うな！俺は一体何だと」
「寝るほうは否定しないんだな」
「………それはこの際さておいて」
あっちおいて、の仕草。
ついでにこほんと咳払い。
「意外だな…本当に、無いのか……それくらいずっと前に通過していると思ったんだが。そろそろ新境地を自分たちで切り開いていく段階くらいかと」
「お前が俺のことをどう見ているかはよく分かった…」
「はあ？何バカな事言ってるんだ。相沢の価値観なんてどうでもいいだろ。水瀬さんがどうなのかがお前らにとっては全てじゃないか」
「………………」
徹底的に、これ以上ないというほどきっぱりと言ってのける北川に、さすがに祐一は言葉に詰まる。
…この言葉に即座に反論できない時点で負けは明白なのだが。
「ど…どっちにしたって、だなっ」
なんとか適当に言葉を捻り出す。言葉を考えている余裕などない。
「名雪だっていくらなんでも――」
「ん？わたしがどうしたの？」
「――至って何でも無いぞ、うん」
物陰から前触れ無くひょこんと顔を現して声をかけてきた名雪に、なんだか妙に慣れたように落ち着いて祐一が語尾を変化させる。
きょとんとした顔で、名雪が首をかしげる。
「よ、水瀬さんも久しぶり。ちゃんと相沢のヤツ見張っておかないとダメだろ？鎖から離れてたぞ」
「…おい」
「わ。わざわざ捕まえておいてくれたんだ。ありがとう、北川くん」
「………ぉぃ…」
ごく普通のように会話する二人に押されて、祐一のツッコミの声も小さい。
「それじゃ一緒に帰ろ、祐一♪」
「ここは一つ、冗談だよってフォローを入れてから言うもんでは」
「え？冗談って、何が？」
「………いや、別に」
本気で疑問のような声で言われてしまうとそれ以上はつっこめない。それが祐一のいつもの弱さであり、そうであるからこそ祐一はいつも名雪に振り回されっぱなしなのだが。
ぐいっと、名雪が祐一の手を掴んだ。
「元気でなー」
北川がそれを見てひらひらと手を振った。
「ばいばい、北川くんっ」
「……またな」
名雪の手に引っ張られるように、祐一が退場してゆく。
職員室の前に残された北川は一人、うんうんと頷いていた。それでこそ、と言わんばかりに。
とことこ、いつも通りに昇降口まで歩く。
名雪が手を引くように、ちょうど二人が普通に歩く速さの中間のペースで。
「ね、祐一」
毎日の行事のようなこの下校も、決して会話を絶やす事はない。学校でも家でもずっと同じ所にいても話す事がなくなることはないのだ。
今日もきっといつものように名雪が今日のこと、明日のこと、日曜の事を――
「一緒にお風呂入りたいの？」
もぎょ。
程好いタイミングで目の前にあった靴箱に顔面からぶつかる。あまり爽快でない音が響いた。
「わ…また……ちゃんと前見て歩かないとダメだよ〜」
「あああああっ！！そんなことはどうでもいいっ！いつから聞いていたっ！？」
がばっと顔を上げて祐一が掴みかかる。
「祐一の声がするから行ってみたらなんとなく聞こえてきてたんだけど」
「そーかそーか。まあ俺もだいたいそういうのは慣れてきた。世の中概ねそういうタイミングで動いているんだなということがようやく分かってきたぞ。今ならこのテーマで博士論文が書けそうなくらいにな」
しくしくと泣くような声音で言う祐一。また一つ大人になったような気分だった。
名雪は不思議そうな顔でそんな祐一を見つめる。
「たぶんそのテーマで論文は書けないよ…？」
「……そこは、さらりと流すところだ」
「難しいね」
何故かにこっと笑う名雪。
気を取り直して、靴箱を開けて靴を取り出す。名雪はもう先に履き替えていた。
ふぅ、と一息ついて、なんとか心を落ち着ける。
「ね、それで、お風呂――」
「だあぁかぁらあぁぁっ！！そうさらりと言うなっ！なんかこう恥じらいとか色々無いのかっ！？」
「あ…ごめん……学校だから、祐一恥ずかしいんだよね、こういうの…」
「あああああ。そうじゃなくてっ！！いやそれはそうなんだがっ！お前はどうなんだっ！？」
今さら、だ。
自分で言ってそう思う。
結局のところそういうところ全てを分かった上でお互い付き合っているのだから。今さらこうやって大声で言うようなことでもない――
…と、冷静に考える事が出来るのはいつも事後になってからなのだった。
「それ…じゃ……」
目を伏せ、下を向く名雪。
ほんの少し、声が震えているように聞こえた。余計な事を言ってしまっただろうか――そう少し後悔していると、名雪はゆっくりと、少しだけ顔を上げた。
頬を朱に染め、やや上気した顔と潤んだ瞳で、上目遣いに祐一を見る。
「一緒にお風呂…入りたい…？」
祐一は―――倒れた。
「この前の授業中の事件なんて結構有名だと思うんだが…知らないのか？」
少女はふるふる、と首を横に振る。
話し相手は、去年まで少女と同じクラスだった男子二人組。
「あれは凄かったよなぁ…」
「そうそう、水瀬がいつも通り授業中に寝てたんだけどな、ちょうど先生が話区切ってシーンってなった時に言った寝言が――」
くくく、と少年は思い出し笑いを漏らす。もう一方の少年はやや恥ずかしそうにしていた。
少女は、ごくりと唾を飲んで、次の一言を待った。
名雪の部屋。
すっかり入り慣れて、もはや自分の部屋という意識すら出てしまいかねないほどに普通に開けられてしまうドア。
「…ふぅ」
少し疲れたようなため息を漏らしてテーブルに座る祐一。
帰ってきたら一緒に勉強会――は、日課になっていた。何せ二人とも３年になってから明らかに成績が降下しているのだ。理由の心当たりは、嫌になるほどあった。
今日、疲れているのは、もちろんそんな事を思い返していたからではなかった。
「う〜〜〜っ…何が分からないのかが分からないよ〜〜っ」
「…ああ」
名雪が唸りながら悲鳴をあげ、祐一はどこか気の抜けた返事を返す。
数学という科目は、最初でつまづくとどうしてもこのような状態に陥りやすいものだ。祐一は嘆く名雪を、また、ちらりとその顔を覗き込む。
（一緒に…風呂…）
慌てて顔を背ける。
名雪の顔を見るたびにその言葉を思い出し、つい、想像してしまう…例えばその服の下を。
放課後からずっとこの調子だ。勉強など集中出来ようもない。
（…落ち着け、落ち着け、俺………名雪の言葉にいちいち惑わされていたら精神が持たん…）
内心で激しく己の妄想と戦う。が、意識すればするほどだんだんその想像図がリアルな映像と質量を伴ってきて――
声、温度、湯気、音、水、泡、体温、柔らかさ。
声、名雪の声。
…当人の目の前でそんな事ばかり考えてしまう自分が嫌になる。嫌になるが…止まらない。
ノートのほうを必死に見つめてなんとか振り払おうと、なんとか勉強に集中しようと必死に意識を逸らす。
もう一度、名雪の顔を、少しだけ覗き込んだ。
目が合う。
「………う」
名雪は、それはもう悪魔の笑みを浮かべていた。それでもにっこりとした、可愛らしい笑み。
「わたしがマジメに勉強してるのに…祐一は何を考えているのかなぁ？」
語尾を微妙に伸ばした詰問口調で。
その目はあたかも獲物を見つけた――いや、既に捉えてじっくりと痛めつける肉食獣のように。
「い、いや…ちょっとぼーっとしてただけだぞ。ああ」
「へぇ…」
名雪は手をすっと伸ばして、祐一の手の上に重ねた。
くすくす、と笑う。
「あのね…わたし、祐一がどれだけ分かってるか知らないけど…祐一の事なら何でも分かっちゃうんだよ。今の祐一ね、エッチなコト考えてる顔してるもん」
「ぅえ！？て、適当な事言うなっ」
「適当じゃないよ…いつも祐一、そやって視線が泳いだりわたしのほうをちらちら見たりしてるんだ。――さあ、何を考えていたのか言ってもらおうかなぁ？」
「……うぅ」
目は口ほどにものを言うとはよく言ったものだ。今の今まで自分では自覚が無かったというのも問題ではあるが。
繋げた手から、また、名雪の体温を実感する。
恥ずかしい。
名雪には考えている事全てがとっくにバレているかのようで。いや、実際、そうなのかも知れないと思う節はいくらでもあった。つまり、そうなのだろう。恐らくは先程まで考えていた事も、手が触れた瞬間に大きく反応してしまった事も。
まず間違いなく、分かった上で聞いているのだ。
名雪はいつも、言葉にする事を要求する。愛を伝える言葉さえ恥ずかしがって言えない祐一に、まるで自分が手本だと言わんばかりにどんな事でも普通に言ってしまう。
「そっかぁ…祐一は、勉強中もそんな事ばっかり考えてるような男の子だったんだ」
わざとらしくため息をついてみたり。
悲しそうな顔をしてみせたり。
それでいて何かを納得したように頷いてみせたり。
「…っ…い、いや。たまたまだろうがっ。いつもみたいに言うな――つーか、お前には言われたくないぞ俺もっ…名雪のほうがよっぽど」
「勉強もマジメにできない悪い子にはおしおきが必要かな…ふふ」
「聞けよ人の話―――って、何故脱ぐ！？」
「あ、またヘンな期待してる。ホント祐一ってばエッチだぁ〜」
制服のリボンをしゅる、と片手で解きながら名雪は楽しそうに笑う。
祐一に重ねた手を離す。
リボンが解かれる。摩擦でずれたケープが支えを失い、背中を這うようにして床に落ちた。
名雪は、両手をやや広げてリボンの両端近くを持ち、ぴしっと目の前で伸ばした。ひゅん、と風を切る小さな音。
十分な強度を感じる手ごたえに満足して、頷く。
「さて…覚悟はいい？」
結局。
二人の成績が伸びないわけである。
夕食。
やたらに疲れている祐一とやたらに元気な名雪を見て、秋子はくすりと小さく笑っただけで何も言わなかった。
箸を動かす時に時折痛そうな表情を見せると、何か思い出すように遠い目をしていたのを祐一は見逃さなかった。詳しく追求する気には到底なれなかったが。
「…ごちそうさま」
微妙に気まずいものを感じながら――悪い事は何もしていないのに、と思う――とりあえずは、食べた。満足行くまで。
ふう、と一息つく。いつもながら食事後というのは自然に落ち着く。それだけでも食べる甲斐はあると思う。何もかもを忘れる、平穏なひととき。
「あ、お母さん。今日は祐一が一緒にお風呂に入りたいって言ってるんだけど、いいよね？」
―――それを邪魔するものさえ無ければ。
今回は派手に、椅子ごと倒れてみた。
激しく痛かった。しかも食後だから内部的にもダメージ大きい。
「あらあら、祐一さんったら…わかったわ。それじゃ私は先に入ったほうがいいわね？」
「うん♪」
「言ってないーーーーーーーーーっ！！！」
勢いよく立ち上がって（ちゃんと椅子も戻しつつ）、声の限りに叫ぶ祐一。
はあはあと激しい呼吸。
一瞬時間が止まったようにシーンとなって、二人の視線が祐一に集中する。
「これは祐一のいつもの裏返し表現だから気にしないでね」
「そう」
「違うっ！！そして違いますっ！あっさりと納得しないで下さい…」
「祐一ったらね、勉強中もその事ばっかり考えてるんだよー」
「あら…ダメですよ祐一さん、締めるところはきちんと締めないと」
泣きながら机に突っ伏す。
いや、内容的に間違いではないのだが。
それ以上に秋子の口から「締めるところは」などという言葉が出てくること自体が驚愕だったりもしたが。
祐一が考えた事は名雪に全部バレてしまい、自動的に秋子にも伝わるシステムが完全に出来上がっている――水瀬家の法則。
改めて自分の置かれている環境というものを思い知らされるのだ…過去にも幾度と無くあった通りに。
「今更恥ずかしがるフリをする事もないのにね〜。真琴の時は」
「あああああああ俺が悪かった許してくれっ」
事あるごとに攻撃材料にされる過去の過ち。本気で泣きたくなった。
もちろん、名雪の言う通りに本当は平気だというわけでは、決してない。相手が違うのだ。
そんな事を冷静に反論する余裕などあるはずもないが。
「それじゃ、準備してきますね」
秋子はいつものように微笑みながら立ち上がると、ゆっくりと奥のドアから歩き去っていった。
ぱた……扉の閉じる、小さな音。
テーブルに残る名雪と祐一。
ここで沈黙することは絶対に避けたかった祐一は、慌てて言葉を捻り出す。
「だ…だいたい、名雪は…恥ずかしくないのかっ？い………言っておくが、俺は…かなり……恥ずかしいぞ…」
自分で言って真っ赤になっていれば世話はない。と思う。
名雪は、ん？と小さく首をかしげる。
「ヘンなこと聞くね、祐一」
心底不思議な事を尋ねられているというような声で答える。
――以前にも、同じような言葉のやりとりをした事があったような気がする。確かあの時は付き合い始めてすぐの頃で、あの時の返事は――
「恥ずかしいに決まってるよ。その恥ずかしさが気持ちイイんだよね♪」
………後半が余分だが、あの時の返事と同じだった。つくづく、後半が余分だが。
「『縛った痕に泡が染みちゃったんだ………ごめんね…祐一』……いや、もう、参ったね。教室中があそこまで完全にシーンってなったのは未経験だったぞ俺は」
「あの時の相沢の顔がまた楽しかった…」
少女はただ顔を真っ赤にしながら聞いていた。
いや、少し、わくわくと期待の表情を浮かべながら。
「他にもだな――」
そして、男子生徒は話し出す。
目の前を男子生徒が通り過ぎていく。
目が合う。
思い切り睨まれた。
「…なんだか、どうでもよくなってきた気がする」
昨日よりは少し涼しい中庭。
祐一は、ぽつりと呟いた。
程好い気温と、程好い日差しと、やや熱い体温と…眠気を誘う要素は十分に備えている。
「ん？五月病？」
「いや……そうじゃなくて…」
軽く頭の角度を変える。名雪のふとももに頬が直接触れる。
「…俺………もうダメかもな、ある意味…」
名雪の膝枕の感触を存分に味わいながら、祐一はため息をついた。
たまたま目の前を通りかかった栞が―――通りかからずに、Ｕターンしていった。
ＦＩＮ．．．．
【あとがき】
今回のラブラブ度：４０％（えっち度７０％）
あああ。
大変お待たせしました〜〜〜〜〜〜〜
ラブラブなゆちゃん劇場４でございます。３から実に………９ヶ月半（汗）
当初考えていたシチュエーション、終わってみれば一つも使ってません(^^;
まあどちらかと言えば番外編向けのネタなので、そっちのほうでまたやりますね〜
さてさて。少しでも「はうぅっ」となっていただけたらこれ幸いです。なんせそれ（及び名雪好きを増やす）だけが目標のシリーズですから…
しかしそれにしても、かなりいっぱいいっぱいですねー…ラブなゆ２なんて２時間で一気に書いたというのに、今回は一体何日かかってることやら（汗）
ではでは失礼致します〜
プレッシャーにひたすら弱い村人。をどうぞ皆様冷たい目で見てやって下さい…ああ見るがいいさ！ヨドバシカメラ萌え！（壊）
あ………引かないで…