「それじゃあ……こっちっ」
「……また引かれた」
「あははー。これで佐祐理は上がりですーっ」
「……というわけでまた1:1の戦いだぞ、舞」
「祐一には負けない」



 ババ抜き(Baba-nuki)――この誰もが知っている有名なゲームが、岩手県の山奥にかつて存在したとある村を襲った、人に化ける鬼の伝説に由来する事を知るものは少ない。
 誰かが最初に言い出した。俺の弟が鬼に食われた。今弟のフリをしているのはその鬼だ。俺は見たんだ。
 人に化ける鬼――ちょうど村では家畜の不審死などの奇怪な事件が相次いでいた事もあり、その恐怖はすぐに村中に伝達した。そういえば自分の娘が最近おかしい。友達のあの子がいきなり人が代わってしまった。――鬼が化けているに違いない。
 魔女狩りの始まりだった。恐怖で追い込まれた村人達は次々にほとんど根拠もなく疑いを持たれた者達を処刑……殺していった。誰も彼も、愛する家族を殺されて涙して抗議する母親たちも……次々と。
 気がつけば村の生き残りはほんのわずかになっていた。ほとんどが殺されてしまった。
 処刑を主に担当した村人はふと我に返った。とんでもないことをしてしまった。どうしてこんなことになったのか。
 その彼の肩をぽんと叩いたのは、最初に弟が鬼に食われたと訴えた男だった。
 男が言った。
「今までご苦労さん。楽にたっぷりご馳走を頂いたよ。お前も自分達が殺した家族達と再会してきてくれ。……腹の中で、ゆっくりとな」
 彼が最後に聞いたのは、村にいたただ一人の本当の鬼の言葉となった。
 ――本当の鬼は、考えもしないところに潜んでいる。
 誰が鬼なのかは最後まで分からない。
 ババ抜きとは、そんな伝説を元にして生まれたゲームである。

「……佐祐理さん、なんでまたわざわざ、今からそれをやろうって時にそんな話を」
 屋上前の階段の踊り場。
 すなわち、舞、佐祐理さん、そして俺の遊び場の定位置。
 いつもならここに来ているのは昼休みなのだが、今日は土曜日なので時間はたっぷりあるのだ。たまにはこういうのもいいだろうってことで俺が提案した。
 そして佐祐理さんが取り出したトランプを見て、とりあえず二人ともがルールを確実に知ってそうなババ抜きをやろうと言ったわけだ。
 それがいきなり怪談に入っているのはこれいかに。
 ああ、階段だけに。
 階段だけに……怪談……かいだん………………
 い、いや、これを言うのはやめておこう。あまりにアレだ。舞はともかく佐祐理さんから冷たい目で見られるのは苦しすぎる。一生トラウマになりかねないからな、うん。思いついた自分が恥ずかしい。
「物事は本質を知っておくのが大切なのですよーっ」
「……怖い」
「ごめんね、舞。大丈夫だよ、これはゲームだから」
 少し涙目になる舞の頭を佐祐理さんが優しくなでなでする。
 ああ、羨ましい。俺も怖がってみたいもんだ。
 じーっと眺めてみる。
「それにしても知らなかったなぁ……佐祐理さん、よくそんなこと知ってるな」
「ありがとうございます」
「どこでそんなの知ったんだ?」
「半年くらい前に、下校中にふとカーネルおじさんの像を見て思いつきました」
「創作!?」
 つまり嘘っ!?
 さらーりと言ってのける佐祐理さん。
 ああ。そんなところも大好き。
 発想のきっかけが謎すぎるのも、話の内容がやたらにホラーなのも、そして半年間もこのネタを温めていたところもみんな素敵さ……
 ……いや、ほんと。うん。


 まあ、そんなこんなで。
 佐祐理さんは実に……強いのでありました。
「これで佐祐理さん何連続トップだ?」
「9回目ですよ」
「……佐祐理さん、実は透視でもできるんじゃ?」
「あははー。祐一さんってば、無理ですよ〜〜。佐祐理は普通の女の子なんですから、透視なんて出来たらいつも制服を透かして見ちゃって毎日刺激的でとっても素敵じゃないですかー」
「そうだよな、無理だよなー……っていうか、普通の女の子ですからはその後に続く文章にかかっているのかどうか物凄く疑問なんだがそのへんどうなんだろうと」
「あ、ほら、祐一さんの番ですよーっ」
 流された。
 いつもの事だ。うん。その自然な流し方がまさに女神のように美しい。
 我ながら無理がある比喩表現だと思うがそこはこの際気にしない。
 もう慣れたし。
 なんて思いながらポーカーフェイス舞からひょいっと適当に一枚引く。
 ……鬼が、出た。
 そして喰われた。



「うーん」
 勝負を何度か繰り返した後。
 一息ついてみる。
 さすがにこう佐祐理さんがずっと勝ちつづけている現状のままではよろしくない。
 いやそんな佐祐理さんが素敵なんだけど、もちろん。
 しかしやはり勝ちたいのが人というもの。
 そして――
「そこで俺から提案がある」
「……そこで?」
 思わず脳内からそのまま会話を続けてしまったのを舞にツッコまれた。
 舞のツッコミは佐祐理さん仕込みだ。最近は随分と手馴れてきたようだ。
 それはそうとその佐祐理さん自身のツッコミを見た覚えは、俺は、ない。
 ……さておいて。
「そろそろ違うゲームにしてみたいと思う」
「佐祐理に勝てないから諦めた?」
 的確に真相を突くツッコミは、たまに勘弁してほしいときもなくもない。
 それにしても一瞬の間も無かったな、今。
「佐祐理は何でもいいですよーっ」
 さすが。佐祐理さんならそう言うと思ったさっ
 というわけで、遠慮なく行かせてもらおう。
 考えるに、心理戦の要素の強いゲームはダメだ。佐祐理さんはほんの僅かな反応の変化から読みきってしまうのだろう。それが強さの秘密だと俺は考える。さすが佐祐理さん。ぶらぼー。
 かつ、神経衰弱のような記憶力ゲームも避けたほうがいい。佐祐理さんが学校の成績トップを独占しまくっている秀才であることを忘れてはならない。さすが佐祐理さん。えくせれんと。
 つまり、純粋に運の要素の強いものがいい。
「ポーカーがいい」
「ポーカーですかー。いいですねー」
 いいです。
「……分かった」
 分かられた。
 よし。
 第一関門は突破した。
 しかし、俺の戦いはここから始まる――
 いや、言ってみるだけ、なんだけど。うん。
「それでだ。真剣勝負にするために、もう一つ提案がある」
 言い方やタイミングを間違えると悲惨な目にあうので要注意。
「なんでしょう?」
 はてな、と首を傾げる佐祐理さん。
 ああ。なんて可愛いんだ。今すぐにその笑顔を持って帰りたいっ
 ……落ち着け自分。
 そう、そんな佐祐理さんを俺は今からちょっと困らせてしまうのだ。
 もう、困ったさんなんだからーと「めっ」って戒めてもらうのだ。なんて素敵。想像するだけで脳内麻薬が分泌されまくりだ。
 ……ぞくぞく。
 びしっ!
 親指を二人の前で立てる。
 言っちゃうぞ。
「ずばり! 負けたら1枚ずつ脱ぐ! 脱衣ポーカーを俺は提案する!」
「いいですねー」
「……なーんてな。あはは、そんなに引かないでくれよ………………って」
 え?
 ――佐祐理さん、今何と?
 聞き間違いか?
 俺の聞き間違いかそれとも佐祐理さんの聞き間違いかあるいはドップラー効果(最近習った)か?
「是非やりましょう。舞もいいよね?」
「……それは」
「あは、恥ずかしがっちゃってる。舞ってば可愛いっ。大丈夫だよ、いつもやってるようにすればいいから」
 ――いつもやってる?
「そんなわけで舞の同意も得られたところでさっそく始めましょう」
 いえ、あの。ずいぶん意気込んでおられますが。
 マジデ?
 あれ? 嘘? なんで?
 というか気になる一文が。
「佐祐理さん……いつもやってるって……?」
「はい? 何のことですか?」
「い、いや、さっき舞に」
「もう、祐一さんもやっぱり男の子なんですね。でも分かりますよ、舞のこのスタイルはなかなか見られるものじゃないですから。気になりますよねー?」
「いつも何をやっているのかのほうが気になります」
「さあ、そうと決まれば張り切っていきますよー!」
 完全に流された。女神のように美しく。


「……ノーペア」
「はい、舞の負けー」
 うわ、佐祐理さん嬉しそう。心底から嬉しそう。
 自分の危機を脱出できたから……というわけでも無さそうに見えるわけで。
「さあ、舞。ルール覚えてるよね?」
 わくわく。そんな効果音が宙に浮かんでいるのが見えるような声なのは何故。
「……でも……祐一が」
「あー。本気で脱がなくてもいいぞ、うん。さすがに俺もそこまでのつも」
「何言ってるんですか祐一さんっ。ルールは絶対ですよー。勝負は勝負なんです、けじめはしっかりとつけないといけません。……分かってるよね、舞?」
「うん……」
 ……あー……
 思い切り言葉を遮られた。勢い良く。
 佐祐理さんに怒られてしまった。しゅん。
 ……ってか、本当に? いいのか?
 ここ学校なのに。
 いや学校じゃなければいいのかという話はまた別で……その
 なんて考えている間に舞はケープに手をかけて、リボンをしゅるりと解いていた。
 ……ぱさり。片方の端が床に落ちる音がした。
 う……
 ど、どうしたことか。あの制服のケープを外しただけだというのに、脱ぐという動作が入るだけでこうもドキドキしてしまうのは……
 いやいやいやいや。
 俺には佐祐理さんという、予定ではだいたい3年後に将来を誓い合う仲の大切な人がっ!
 気を取られてはいけない!
 ……で、でも、佐祐理さんが負けたら、同じようにこうやって……
 ……じゅる。
「はい、今度は祐一さんの負けー」
 ………………ってなんか考えてる間にいつの間にか次のゲームが終わってしかも負けてるー!?
 負けてる。
 えー。つまり。その。アレだ。
「……えー……えーと……脱ぐのか?」
「当然です」
 にこやかにすっぱり断言されてしまった。
 いや俺が脱いでも誰も喜ばないと思うわけで……
「ルールはきちんと守らないといけませんよ?」
 にこり。
 ああ。可愛い。
 そうだな。こんな信頼の笑顔を裏切ってはいけない。
 信頼には答えなければ!
 なんか間違ってるだろとかいう奥底からの理性の声は無視しつつ、とりあえずブレザーを脱ぐ。
 ……う。なんか、ただこれだけのことなのに、視線がやたらに恥ずかしいぞ。
 そして寒いぞ。
 ……頑張る。


 ぷち……ぷち……
 そんな音は実際には鳴っていないはずなのに、効果音が聞こえてきそうだ。
 舞が制服のボタンを一つ一つ外すたびに中から豊満なボディが弾けるような
「って、すとっぷーーーーーー!」
 ぴた。
 既に制服の隙間から白いナニカ(清楚なレースだ)が見えている状態にまでなって(舞も結構普通の着てるんだな)、慌てて俺はなるべく見ないように目を少し背けながら(やっぱり大きいな)ボタンを外す舞を止めた。
 ……あ、舞と佐祐理さんから注目浴びてる。
 照れるぜ。
 じゃなくて。
「えー……と。ほら、それ以上はやっぱり、まずい……だろ。うん。普通に考えて」
 なんて常識的な意見。
 いや、でも、ねえ。
 まさか本当に脱ぐとは思ってなかったし。
 やっぱりその……
「ルールはルール、ですよ。祐一さん」
「そうだよな。うん、ルールは守られてこそ意味がある。俺もそう思う。さすが佐祐理さん!」
 さあ脱げ舞!
 ………………
 ……違うー! 俺の馬鹿ー!
「ほら、舞。早く早く。まだこの先があるんだからここで止まってちゃダメだよ」
 あるんだ、この先っ!?
 いやさすがに本当にマズいだろだってもうその制服脱いだ時点で下着しか残らないしそのあの
「あははー。祐一さんが食い入るように見つめてるよー」
「祐一のすけべ……」
 あああああ。
「違う! 誤解だ! 錯覚だ! 真空中を1とする光の屈折率の影響だ! なるべく見ないように心がけているんだ!」
「はえー……ねえ舞、祐一さんは舞のことなんて見たくもないんだって……悲しいね」
「祐一のばか……」
 違うーーーーっ!
 あああ。佐祐理さんも舞もそんな悲しい目をしないでっ(しっかり見てる)
 俺は二人に(主に佐祐理さん)悲しまれるのは凄く辛いんだ!
 ごめんなさい正直になります。
「……本当は、もっと見たいです」
「きゃ、祐一さんのえっちー」
「変態……」
 泣いてもいいですか。


「あ……佐祐理、負けちゃいました」
「来たあああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
 ………………
 ……あ。
 思わず本音をそのまんま口にしてしまった。
 なんか佐祐理さんと舞から痛い視線がっ
 舞……
 ああ、佐祐理さんももうすぐ舞みたいなあんな姿に……
 ドキドキ
 じゃないっ。
 えーと……その、何だ。
「……き、北……うん、北だ。核持ってるのって怖いよなぁ。あははははは」
 よし。
 ナイスフォロー、俺!
 パーフェクト! 無意味にガッツポーズ!
「脱ぎますねー」
「ルールだから……」
 完璧スルー!?
 恥ずかしい俺!
 ……い、いや。それどころじゃない。そんなことはどうでもいい。
 これからいよいよ佐祐理さんの……佐祐理さんの……
 ああ。この胸のドキドキ。想像するだけで外耳炎になってしまいそうだ。
 する。
 ぱさり。
「脱ぎましたー」
 やたらにあっさりー!?
 ……ま、まあ、まだケープだけだし……次だ、次!
 さあ勝ちに行くぞ! 頑張れ俺!
 そしていよいよ佐祐理さんの禁断の領域に
「はい、祐一さんの負けー」
「またかー!!」
 いいさいいさ、脱いでやるさっ
 ……とりあえず、ネクタイだけ。
 うーむ。普段は面倒なだけのコレがこんな形で役に立つとは。
 大切なものは失って初めてその価値に気づくというアレか。
 ごめん嘘。


 自分の勝ちがほぼ確定しているとき。
 例えば手元にフルハウスがあるとき。
 祈るのは、舞が俺の次にいい手であること。
 いやしかし、舞が次負けたらそれはそれで凄いことになるわけでそれもまた見てみたいわけで……
 違う。早まるな、俺。
 そうだ。俺は佐祐理さん一筋だったはずだ。そう、あの時からずっと。
 あの時っていつだったかもう忘れたが、そんな事は些細な事だ。
 本当に好きならここで脱がすのも問題だろうとかいう意見もありそうだが、そこはこの際目をつぶろう。俺が許す。
 だから俺は、決して手を抜かない。
 舞の手元に好手が入っていることを念じるのも忘れない。何なら俺より強い手でも構わない。1位であることは重要ではないのだから。
 舞。君ならできる。君は強い子だ。心の目で見るんだ。無我の境地に達するんだ。あわよくばイカサマするんだ。
 さあ、行け。
 俺は俺の手を出すだけだ。
「フルハウス」
「スリーカード」
「ツーペアです……負けちゃいました」
 舞。
 よくやった。
 君は……勝ったんだ。戦いに。自分との戦いに。最終試練に。
 さあ、佐祐理さん。
 ……はやくはやくっ
 うはははははは。
「脱ぎますね」
 ドキドキ。
 ドキドキドキドキ。
 佐祐理さんがボタンに手をかけた。
 ひとつ、ひとつ……
 外していく。
 今まで誰の目にも晒されなかったであろう花園が今ここに公開されようとしている。
 ああ。緊張で、眩暈がして、倒れてしまいそう。
 佐祐理さんの素肌が……
 素肌……が……
 ……最後のボタンが、外し終えられた。
「……あの、佐祐理さん」
「はい?」
「どうしてシャツ着てるンでしょう、制服の下に」
「あははーっ。こんな事もあろうかとちゃんと対策してきたのですよー」
「どんな予知能力があったら『こんな事もあろうかと』思えるのかとても知りたいです」
「さあ、次行きますよー!」
 やっぱり流された。
 クレオパトラのように美しく。
 ……クレオパトラって何した人だ? 真珠飲んだ人ってことしか知らないぞ?


 ぶかぶかのTシャツから覗く素足というのはそれはそれで実に素敵なものです。


 舞が負けてしまったのは、その後佐祐理さんがTシャツを2枚脱いだ後だった。
 ……えーと、まだその下にシャツですか。
 今日これのためにそんな無理な着かたずっとしてたんですか。
 そんな佐祐理さんが大好き。
「ふふ……さあ舞、追い詰めたよ」
 うわー。
 佐祐理さん目が輝きまくり。
 なんか微妙に口調も違うし。
 舞は困った顔で佐祐理さんと俺の顔を交互に眺めている。
 無理も無い。もう脱ぐものと言えば上下の下着と……
「……そうそう、まだ靴下があるんだ。セーフだな」
「何言ってるんですか!」
 びくっ。
 え、い、今の佐祐理さん?
 今の威圧感は何?
 びっくりして振り返ったときにはもう佐祐理さんはいつもの素敵な笑顔で。
「祐一さん、素直になりましょう。本当に靴下を脱がせたいのですか? 靴下は……全て脱いでも最後まで残しておくもの、本当はそう思っているのではないですか?」
 ……思ってません。
 え? 何? 常識?
 俺が世間知らずなのか? そういうものなのか? 佐祐理さんがこれだけ言うんだしそうなのか?
 でも俺はそんな趣味は特に
「思ってますよね?」
「もちろん」
 ……本当は、そんな趣味あったんです。
 ホントホント。
「もう、祐一さんってばマニアックなんですからー」
「祐一は変態……」
 あ……ごめん。本当に涙が……

「さ、舞……手伝ってあげようか?」
「……うん」
 泣いている間に事態は進行していた。
 いつの間にか(本当にいつの間に?)舞の隣にまで移動していた佐祐理さんが、舞のブラに軽く手をかけながら尋ねる。
 舞の返事を聞くと、躊躇う事なく背中に手を回し……おそらくは俺からは見えないところで、背中のホックに手をかけて。
 ……外した。
 ぱら、とブラの横のラインが落ちる。
 肩紐で引っかかっているため、まだ全体が落ちることはない。
 しかしもう、時間の問題だった。
 ついにこの時が……
「……やっぱり、やめよう。俺が悪かった。こんなこと言い出した俺が悪かったんだ。だから、やめよう」
 もう、見ていられない。
「……祐一さん?」
 佐祐理さんが、きょとんとした顔で尋ねてくる。
 今はその顔を真正面から見つめるのも辛い。
 だって、そうだろう。
 今から行われようとしていることは、俺にとっては佐祐理さんへの気持ちに対する裏切りになる。
 そう、俺は心の貞操を守るのだ。
 俺が女の子のハダカを見るときは、すなわち佐祐理さんを初めて抱く時(だいたい1年後を予定)でしかあってはならないのだ。
 密かな誓い。
 ああ。佐祐理さんならきっとこの気持ち、分かってくれるはず。
 不思議そうに俺の顔を見つめている佐祐理さん。俺の気持ち、伝わりますか?
 勇気を出してじっと目をみつめる。
 視線がぶつかりあう。
 佐祐理さん。好きです。
 ……彼女は、素敵な笑顔で、にこりと微笑んだ。
「えいっ」
 そして思い切り、舞のブラの肩紐も外して引きずり下ろした。



 意識が戻ってから記憶が戻るまで20秒ほどかかった。
 自分が枕にしているのが舞の膝の上だと気づくまでにはもっとかかった。
「あ、祐一さん起きましたー? 大丈夫ですか?」
 覗き込む佐祐理の顔がある。
「心配した」
 舞の声だけが真上から聞こえてくる。
 だんだん、我に帰ってくる。
 ……なんだか、凄い夢を見たような気がした。どんな夢だったかは覚えていない。
 佐祐理さん、舞、時刻表、ウィークエンドあかぎ、7秒間の死角……そんな単語の断片だけは覚えている。
 どんな夢だ。
「祐一さん、20分も寝てたんですよ」
「まじか……」
 20分間でどんな壮大な夢を見ていたんだろう。
 いやそういう問題じゃないけど。
 むしろ今までの脱衣ポーカーのほうが夢だったのではないかと思える。
 二人ともちゃんと全部着てるし。
 いつの間にか俺も全部着てるし。
「……なんか、変な寝言とか言ってなかったか? 俺」
 ふと気になって聞いてみる。
 変な夢だと結構あるらしい。恐ろしい。
 と。
 どうしたのか、佐祐理さんは急に顔を赤くして、もじもじと視線を横に逸らす。
 ……な、なんなんだ。可愛いじゃないか。
 ぽ。
 ……いやいやいや。待て。
 その反応の意味するところは何なのか。
「祐一さん……びっくりしちゃいました。佐祐理、そんなこと、全然知らなくて……」
 え。
 何!?
 そんなことってっ。
「……祐一は、凄い」
 舞の声。
 見上げてみると、舞も……驚いた事に、舞も少し恥ずかしそうに頬を朱に染めていた。
「な、何? 俺なんか変な事言ってたのか?」
「そんな、変な事だなんて言わないで下さい。自信……持っていいと思います、佐祐理は。人それぞれ……だと思いますから。決して、変なんかじゃないです」
「私も、ちゃんと理解する」
「気になるーーーーーーーっ!?」
 何言ったんだ俺っ!?
 なんか慰められてるしっ
「佐祐理も、頑張りますから。できる限り」
「……佐祐理、無理はしないほうがいい」
「ううん。いいの、舞。大丈夫だから」
「そう……私も、頑張ってみる」
「何をーっ!?」
「ごめんなさい、祐一さん。こんな盗み聞きみたいな形で本当の気持ちを聞いてしまって……祐一さんがこのポーカーを提案したときは少しびっくりしましたけど、今となってはその気持ちがよく分かります」
 だから何っ
 てゆーか少しもびっくりしてなかっただろうとツッコんでいい場面なのかどうなのかっ
「分かりました。祐一さん、佐祐理の部屋に来てください。……祐一さんがよければ、今すぐでも」
 だから何故そう――

 ………………
 ……なんですとーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?
 い、いま、今何と!?
 なんと言いました!?
 ぱーどんみー!?
 き、聞き間違いじゃないよな!?
 確かに今「佐祐理の部屋に来てください……今日は大丈夫な日ですし、覚悟も決めました」って言ったよな!?
 何てことだ。どういう理由か知らないが一気に事が進展してしまっているではないか。
 些細な疑問などどうでもいい。こうなれば関係ない。
 佐祐理さん……ああ、愛してる……
「今日は大丈夫ですか?」
「めちゃくちゃ大丈夫です。もう佐祐理さんのお誘いが無ければ暇で暇であと少しで寂しくて死んでしまうところでした」
「よかったです♪ さ、舞。いいよね? 今日から祐一さんも仲間入りだよ」
「分かった」
「仲間だー! よっしゃー! ………………………………えーと、ナニガデスカ?」
 仲間?
 なぜここで舞が?
 なんか根本的に何かがずれている――?
「あははーっ。今までずっと二人だったから、佐祐理も舞も男の方は知らないんですよー。ドキドキするね、舞」
「祐一なら……たぶん、大丈夫」
 えーと。
 うわ。
 頭がついていけない。
 どーゆーこと?
 どうも……とりあえず、佐祐理さんの愛の告白じゃ無かったような気がしなくも無いと認めざるを得ないかもしれない状況に陥りつつある気配?
「佐祐理も頑張りますよー! ねえねえ舞、これってツーペアかな? それともスリーカードかな?」
「……今はまだ、上がり前にババが入り込んだだけ」
「あははーっ。ポーカーのほうのジョーカーなら素敵だねー」



 そして。
 混乱と混乱とちょっぴり興奮の中、初めて来た佐祐理さんの家、佐祐理さんの部屋で。
「えーと……あつはなついなぁ」
「ネタが古いです。あと今はまだ冬ですよー。暑いわけないじゃないですかー」
「祐一、もっと頭使う」
「いきなりボケろ言われても何にも思いつかんわいっ」
「そんな身構えなくていいんです。この前みたいに……脱衣ポーカーとか言ってくだされば、今度はちゃんとご期待通りツッコみますからっ。あの時は何も考えなくてごめんなさいね」
「ご期待通りて……いや……確かにまあ違わなくはない……のか……?」
「祐一さんなら大丈夫です。ね、舞?」
「半年くらい……」
「そうそう、半年もあればもう立派に……って舞、台詞一つ飛ばしてますーっ。それは次の台詞でしょ?」
「……間違えた」
「今のこの会話が台本どおりっ!?」
 ごめん。
 俺ツッコミのほうが性に合ってると思う。

 ………………

 違うーーーーーーーーーーーーーーっ!
 なんで俺はこんなことをやっているのか!?
 今頃佐祐理さんとラブラブゴールインしているはずじゃなかったのか!?
 何の練習をしてるんだ自分っ
「さあ、祐一さん、次どうぞ」
「……ふとんがふっとんだ」
「帰っていい」
「ま、まあまあ、舞。そんなこと言わないの。確かに今のはアレだけど」
 ……えーと。
 つまり。
 ……
 わーい。佐祐理さんの部屋で一緒にいられるなんて幸せ者だな、俺♪
 本当幸せ♪


 ……頑張る。






おわれ。


【あとがき】

 何でしょうコレは。
 えーと。久しぶりのSS書かせていただきました。らぶ。
 極めて希少な非ラブコメです。らぶ。
 佐祐理さんってばたまに出番があったらこんなキャラです。いつものことながら。ゴメンナサイ。
 今回はさらに舞が出てます。レアリティが。

 というわけで次回からトリオ漫才、まずは地方大会だ編が始まります。
 嘘ですごめんなさい。

 感想とか文句とかボケとかツッコミとかありましたらいくらでもお待ちしております♪