「……なんなのよっ、これは！」 　部屋に響き渡る、アリスの怒鳴り声。 　カーテンの向こうからメイドに付き添われて現れたアリスを、パチュリーは頭から足元までゆっくり眺める。そして、一度そっと目を閉じる。頷く。目を開く。メイドに親指を立ててみせる。メイドも同じポーズで応える。 「何やってんのよあんたたち！？」 「いえ一応。で、何がそんな気に食わないのかしら」 　顔を真っ赤にしているアリスとは対照的に、パチュリーはいたって冷静に首を傾げてみせる。 　もちろん、計算された冷静さであり、アリスもそのことに気づいてはいるのだが、何にしてもアリスが次に取るべき行動は変わらない。 「この格好よ！　おかしいでしょ！？」 「あら。貴女はもう記憶障害でも起こしているのかしら。貴女が負けたら一日メイドをするという約束よ。メイドなら制服を着るのは当然でしょう」 「いつからあなたのところの制服はこんなのになったのよ！　ていうか！　この子が着てるのと全然違うじゃない！？」 「ああ、ごめんなさい。ほら、貴女背が高いから、ちょうどそれしかサイズが合うのがなかったのよ」 「んなわけないでしょ！　あのナイフ長は私より高いじゃないの！」 　ナイフ長、の単語にアリスの隣に控えるメイドがぶっと吹きだしていたが、それは軽く無視。 「そ……それに……その……」 「……何かしら？」 「なんでわざわざ、その、下……」 「下？」 「下着っ……脱がなきゃいけないのよっ！」 「規則だから」 「じゃあこの子も穿いてないっていうの！？」 「まあ。確かめたいって言うのね。いやらしい」 「ち、違うわよっ……だから……その……ぅー」 「じゃ、納得したところで、仕事に入ってもらうわよ」 「してないー！？」

「……」 「紅魔館のメイドに必要とされるものの一つ、それが猫度というもので」 「……」 「要はたまに侵入するねずみを退治できる程度の能力を表す基準なんだけど」 「……あの、質問」 「はいどうぞ」 「ここのメイドはみんなこんな格好で研修受けてるのかしら」 「いえ。貴女のために特別に準備したわ」 「……」 「ずいぶんと大人しいのね。猫らしくないわ」 「猫じゃないわよっ」 「その耳、とても似合っていて可愛いわ。貴女の本来の魅力を十分に引き立たせていると思うの」 「ふぇっ……ほ、ほめたって喜んだりはしないわよ！」 「というわけで、さらに猫らしさを磨くために今日は特別にねずみさんを呼んでみました」 　がちゃり。 　パチュリーの合図とともに、メイドが入り口の扉を開ける。 「よ！　なんか面白いことやってるって聞いてやってきた……ぜ……」 「……」 「……うわ」 「きゃ……きゃああああああああああああああああああああっ！？」 「れでぃ、ふぁいと」 「戦わないわよッ！！　なんで何の脈絡もなく呼んでるのよっ！！」 　ずり、ずりずり、ずる…… 　アリスは膝立ちのまま、ゆっくりと後ろに下がる。手は、シャツの裾を押さえたまま。 　ゆっくり。ずるずる。 「……何やってるんだ、アリス？」 「たぶん逃げてるんだと思うわ」 「そうは見えないが」 「そのへんは、立ち上がっても後ろを向いてもまして空を飛んでも今よりもっと恥ずかしい目にあうという事情が」 「バラさないのッ！！」