「……さすがに、寒いな」
「もう、だからもっと厚着したほうがいいって言ったのに」
「そこまで着込むと動きが悪くなるからなあ。私はこれくらいでいいんだ」
「よくやるわ。私にはまねできないわね……」
 魔法の森に初雪が降った。
 雪は魔力の発散を鈍らせる効果を持つ。魔力の源が存在する森の中では、普段以上に魔力の濃度が高まる。雪はまさしく、より純度の高い魔法植物を採取できるという合図だった。
 何も二人で申し合わせて家を出発したわけではなかったのだが、偶然か必然か、魔力の濃い一帯で二人はばったりと出会った。
 少し積もり始めている雪の中を歩くのは大変なので、基本的には空からの探索だ。アリスは、魔理沙より少し低めのところをふわふわと飛ぶ。
 アリスは少し考えてから、袋から何かの包みを取り出した。
「はい、これ」
「ん?」
「温かくなるチョコレートよ。ほら、前にもあげたでしょ。今日も作ってきたの」
「おお。もらっていいのか?」
「本当は私が食べるつもりで持ってきたんだけどね。どう見ても魔理沙のほうが寒そうだし」
「ありがたくいただくぜ」
 魔理沙はアリスの手からチョコレートを受け取る。
 結構な大きさで、決して一口サイズとはいえないボリュームだった。何か方針転換でもあったのか、長持ちするようにということなのか。
 魔理沙は手の中のチョコレートを眺めながら、首をかしげた。
「なあ」
「ん? どうしたの?」
「なんでこんな大きいんだ」
「……まあ、ほら。多いほうが嬉しいでしょ」
「はあ。まあいいけど。で、なんでハート型なんだ」
「……」
「……」
「……な、なによ、ほんとここで会ったのもただの偶然であってチョコレートだって本当に自分で食べるつもりだったのを仕方なく魔理沙が寒そうだから仕方なく」
「いや……もういい」


「こ……このときはですね、つまづいてしまったんですよ、ええ、机の前で。なんとか倒れこまないで体を支えることができた瞬間なんですけどねっ……」