『油断大敵』


最近の攻撃は進歩しています。


『たまには』

アリスや霊夢に関わっているせいでたまにえっちな状況に巻き込まれて、魔理沙もたまにどうしても収まらないときがあるようです。



『魔女のこころ』

 ふと我に返ってみると、メモの文字がぐしゃぐしゃに乱れていた。
 何を考えて何を書こうとしていたのか、さっぱりわからない。気がつくと、かなり前から字体は狂い始めていた。
 パチュリーは大きくため息をついて、頭を手で押さえた。さすがにこれ以上の徹夜は無理か。これではいくら時間をかけても何も進まない。せっかくの着想が鮮明に脳内に焼きついている間に勢いで計算まで済ませてしまいたかったが、休まないわけにはいかないようだ。
 開いた本に目を落とし、さらにその上のほうに視線を動かす。そこにちょこんと、アリスが作った人形が座っていた。いつもは鍵をかけた自分の寝室にしか置いておかないものだが、図書館でしばらくの泊り込み生活を続けると決心して、今回だけここに持ってきていた。人形はアリスの姿を模したもので、誰が見てもそうとわかるくらいよくできている。
 いつもどおりに、人形の髪を撫でる。これだけで、いつでも少し元気になれる。体の調子が悪くても、孤独を感じなくて済む。ここに本がある限り、本人だっていつでも来てくれる、そう思える。
 アリスの顔を思い浮かべながら、きゅっと拳に力を込める。もう少しだけ、眠気には去っていってもらわなければいけない。キリがいいところまでは頑張りたかった。この新しい魔法を早く見せたいのだ。メモさえ残っていれば、本にすることはいつでもできる。ただ、計算はあまり中途半端なところで止めるわけにはいかない。
「この魔法、貴女ならどう使うかしらね……?」
 楽しみで、楽しみで仕方ない。
 パチュリーには、魔法を生み出す力では誰にも負けないという自負があった。強力な魔法を行使するという意味でも同様だ。しかし、アリスは魔法を「利用する」ことについては、天才的な能力を持っていた。少なくとも、パチュリーにはそう思えた。新しい魔法でも、すぐに本質的な強みと弱点を見抜いて、より効率的、もしくはまったく違う発想の使い方を見つけるのだ。
 アリスとの交流は、本と理論の世界に凝り固まっていたパチュリーに強い衝撃と継続的な刺激をもたらした。魔法は本にしたら完成、ではないということを知った。本を書くことは以前に増して楽しくなった。
 アリスが非常に友好的なことも驚きだった。魔法使い同士など、仲が悪くて当然なのだ。図書館の管理人をやっておきながらこんなことを言うのもおかしいのだが、図書館だからといって律儀に貸し出し処理を行ったり期限までに確実に返したりするほうが、妖怪としてはよほど異常なのだ。パチュリーが具合が酷いと泊り込みで世話をしてくれたこともあった。いつの間にか、アリスが近くにいることがとても自然で当たり前のことに感じるようになっていた。感化されたのか、パチュリーのほうもアリスに対しての警戒心をまったく持てなくなってしまっていた。
 ぼんやりと数々の思い出に浸りながら、無意識のうちにずっと髪を撫で続けた。幸せな気分に満たされていた。
 そのあたりで、意識は途切れた。


「あらあら。あら」
 小さな悪魔は、図書館の管理人が人形を頬で抱きしめたまま机に突っ伏して眠っているのを見て、何度か大きく瞬きをして、とりあえず意味のない感嘆詞を呟いた。
 彼女が図書館で本を読みながら寝てしまうことは今に始まったことではなかったが、この人形、以前にアリスに頼んで作ってもらった人形を抱きしめた状態でというのは初めてだった。そっと顔を近くから覗き込むと、実に満ち足りた表情をしていた。起きているときにはまず見ることが出来ない顔だった。
「さて、どうしたものやら」
 今日はまず確実にアリスがやってくる日だ。根拠は、貸し出し台帳に書かれた文字だ。返却期限が今日になっている本がある。
 そこで選択肢。
 いち。パチュリー様を起こして、いろいろと準備したり隠したりするための時間を作る。
 に。素敵なことになりそうだからあえてこのままにしておく。
「……んー。んーんーんー……」
 普通に考えれば、パチュリーが望んでいるのがどちらなのかは明白だ。最低限顔を洗って着替えるくらいはしたいだろう。人形を抱いた状態を見られるなんて論外に違いない。
 しかししかし。長い目で見るとどうだろうかと思わないでもなかったりする。
 葛藤。
 葛藤。
「うー。見つけなかったらよかった……仕方ない、起こしますか」
 ゆさゆさ。
「パチュリー様、起きてください。今日はアリスさんが来ますよ」
「……にぅ……すー」
「たぶん午前中に来ますから、早く準備したほうがいいと思いますよ」
「ふぃう……アリスぅ……? ……ん……?」
 むくり。
 ……ごし、ごし。
 はっ。
「……部屋に戻るわ。ありがとう」
 ばっと起き上がる。本を閉じて、メモをまとめて本に挟んで、人形を胸元に抱く。
「いえいえ。久しぶりに見ましたけど、可愛い人形ですよね、それ」
「……まあ、ね。……言っておくけど、別にいつもああして寝てるわけじゃないから」
「了解です」
「……むう」
 ――こん、こん。
 ぴくっ。
 ノックの音。パチュリーの肩が震える。直後に声。扉が開く音。
 ああ。人形を隠す場所などない。なんてタイミング。
「お邪魔します」
「……あ。ええ、いらっしゃい……アリス」
「うん。朝早くからごめんね……あ! 私の人形ね。ちゃんと持っててくれたのね。どう? どこか調子の悪いところとかあったりしないかしら?」
「いえ、そんなことはないわ。とてもよくできてるわよ」
「よかった。その……大切にしてくれるみたいね。嬉しいわ」
「う……」
 ……ぼっ。
 寝起きの、何の覚悟もできていない状態というのは、実に無防備なものだ。身だしなみも、心も。
 一瞬の反応を抑えることが出来なかった。
 パチュリーはぷいっと顔を背けて、細い声で言い放つ。
「……ごめんなさい、ちょっと、部屋に戻るわ」
「うん。……ちょっと疲れてる? 大丈夫?」
「大丈夫だからっ」
「わっ……そう、ごめんなさい。じゃ、先に本の返却だけ済ませておくわね」
「……三十分で戻るから」
「うん。またそのあたりで色々読ませてもらうわ」
「……」
 ぷい。
 パチュリーは最後のアリスの言葉には答えず、すっと浮き上がって、図書館から立ち去っていった。
 残されたアリスは首をかしげて、目の前の小さい悪魔に声をかけた。
「徹夜明けでしょ、あれ。体、大丈夫なの?」
「大丈夫みたいです。……やっぱり、見るだけでわかるんですね」
「うん。無理しそうになったら、ちゃんと止めてあげてね」
「ええ。アリスさんにそう頼まれたとちゃんと言います」
「う。そんなこと言うと逆に意地にならないかしら」
「さあどうでしょう。うふふ」


『集合写真です!』

 からん、からん……
「アリスさん、いますか?」


「最近よく来るわね」
「今日は、取材です。そういえばまだ聞き忘れていたことがあったので。人形作りについて、詳しく!」
「ああ……そうなの。ごめんなさい、今日はちょっと無理だわ。今、会議中だからね」
「会議?」
「うん。また今度でいいかしら?」
「いえ! アリスさんが何やら誰かと会議となるとニュースの臭いがします! 取材対象を変えましょう!」
「え……別に、面白いものじゃないわよ」
「それは私が判断します。極秘というわけではないんですよね?」
「うーん……まあ、でも、新聞にされるのもちょっと、という内容ではあるから」
「どういった内容のことで?」
「いや……だから、遠慮してくれると嬉しいんだけど」
「せめて、どんなメンバーなのかだけでも」
「だからね」
「なんだなんだ。訪問販売の撃退なら私も手伝うぜ」
「あ、魔理沙さん。……やっぱり」
「なんだ。新聞拡張員のほうか。今後年金でずっと養ってくれるならとってやってもいいぜ」
「違いますよ! 魔理沙さんがいて会議ということは何かご近所トラブルの類ですか? それとももっと」
「ああもう。何も言うつもりはないの。さ、早く帰って」
「うう。冷たいです。気になります」
「なんだ、取材か。よし、帰れ」
「魔理沙さんまでっ……うー。このままだと二人きりで謎の密会? とかそんな記事書いてしまいますよ」
「あのね――」
「それは、困るわね」
「……って……これは、予想外のもう一人がいましたね。まさかあなたがここにいるとは思いませんでした。もしかして、まだまだたくさん集まっているんでしょうか。ますます気になります」
「いいえ。私で最後よ。まさか、と貴女は言うけど、私がここにいるのは別に珍しいことではないわ。貴女は知らないでしょうけどね」
「む……」
「悪いけど、大切な打ち合わせ中なの。”部外者”は退席してくれるかしら?」
「ま、まあまあ。また今度来てくれればいいから、ね?」
「魔法使い結集、ですか……何やら、大掛かりな話の気配もします」
「このまま続けるつもりなら究極三人合体魔法を食らうことになるぜ?」
「う……それは、恐ろしいです。仕方ないですね。また今度、ゆっくり聞かせてもらうことにしましょう。でも――」
 ささ。
「せっかくなので、記念撮影一枚どうですか? 幻想郷の三大魔法使い集合写真! ですよ。とっても貴重です」
「貴重なのか?」
「さあ……割とよく集まってるけどね?」
「部外者だから知らないんでしょ」
「でもせっかくだから写真は撮ってもらおうぜ。考えてみれば確かにそういうのはなかったしな」
「そう、ね」
「はい、では……そうですね、パチュリーさんのあたりまで下がって並んでください」
「おう」
「……う。なんだか、緊張するわね。写真のために並ぶっていうのは。慣れてないわ」
「私も」
「はい、そのあたりです。……うーん。アリスさんの表情が硬いです。リラックスしてください」
「う、う。そんなこと言われても」
「手伝ってやるぜ」
「ん」
 ぎゅむ。
 ……さわっ。
「きゃっ……!?」
「あ、いい表情」
 ぱしゃり。