昨晩はもう遅くなったということで魔理沙の家で泊まることになった。
 当然ベッドは一つしかなかったから、魔理沙と同じベッドで寝た。ドキドキした。ドキドキしてうまく眠れなかったけど、やっぱり魔理沙にとっては何事もないことのようで、魔理沙は普通に寝ていた。
 そんなわけで起きるのが遅くなってしまったアリスは今、魔理沙のいなくなったベッドでひとり、まだ寝たふりを続けてこのベッドの感触を味わっているのだった。
(枕にも魔理沙の匂い……)
 息を大きく吸い込むだけで、魔理沙がぎゅっと抱きしめてくれるような気がして、とろんとなってしまう。
 きゅん。
 ベッドにはまだ残る魔理沙の温もり。ベッドは微かに寝汗で湿っている。
 きゅん。
 ああ。魔理沙はいつ戻ってくるか知れない。
 だというのに。
 だというのに!
 アリスにはこの極楽のような地獄のような状況を、平静で乗り切ることなどできない。
 いっぱいに息を吸い込んで。
 ――きゅん。
「ッ……」
 声が漏れてしまいそうになる。
 魔理沙。魔理沙。魔理沙。
 魔理沙――
「――ったく。さっさと起きろって。ほらっ」
 声は。
 急に聞こえてきて。
 何の反応もできないまま、布団は容赦なく剥がされた。

「――」
「……」
 止まる時間。
 あ。ああああ。あああ。
 アリスの頭の中はひたすらにパニック。いやいや今まで何度か似たような状況はあったそのときも魔理沙は何も気付かなかった今回だってピントのずれた反応をするだけに決まっているそうだだから大丈夫何も気にしなくてもいい――
「……あ……」
 魔理沙は。
 気まずそうに、頬を赤く染めて、目を逸らすのだった。
「……悪い」
 それだけ言うと、もう一度アリスの体に布団をかけて。
 もう何も言わず歩き去っていった。
 ぱたん。扉の閉まる音。

 ぱたん。何かが閉まる音。
 ……
 ……放心すること約1分間。
 
 そのあと、アリスの心の中で人形裁判が始まるのはまた、別のお話……