『まくらあそび』

 枕で遊んではいけませんが、このような場合はむしろ推奨されます。


『お菓子な休日を』

「私も少し――ええ、決して貴女ほど上手くはできないでしょうけど、少しくらいは、お菓子作りを覚えてみようと思うの。魔法アイテムにも割と関わってくるしね」」
「そうなんだ。うん、ここなら道具は何でも揃ってるし、練習にもいいと思うわ。ちょっと湿度が高いからものによっては難しいけど……」
「時間があれば、教えてくれる?」
「もちろん! 色々と面倒だけど、楽しいわよ、きっと」
「……ありがとう」

「――ほら、これくらい室温下に置いておけば柔らかくなるから、ヘラで簡単に混ぜられるでしょ?」
「本当ね。ずいぶんと待たないといけないのね」
「だからって火に当てて溶かしちゃうとバタークリームじゃなくて溶かしバターになっちゃうからだめなのよ」
「バターの準備は最初にってことね」
「そうそう。あとはもう、どんどん混ぜていくだけ。メレンゲが入るまではヘラでいいわ」
「メレンゲ?」
「卵白を泡立てたもののこと。ここが一番大変なところなんだけどね。これ、泡だて器。こうして……ね」
 しゃかしゃか。
 しゃかしゃかしゃかしゃか。
「ふうん……? あ……白くなってきた」
「そう。まだまだこれからなのよ。やってみる?」
「うん」
「ここを握ってね……」
「……うん」
 ぎゅ。
「そう。それでさっきみたいにぐるぐるまわすの」
 がしゃ。がしゃがしゃ。ばしゃ。
「……あ」
「んとね。こっちの手はこのあたりを持って押さえると楽よ」
 ぎゅ。
「……」
「あんまり力入れるとすぐ疲れちゃうし、力抜きすぎるとボウルが暴れちゃうから、ほどほどに、なんだけど。そのへんは慣れだから。あとは……スピードと体力勝負になっちゃう」
「……」
「泡立て方はね、こうやって一定のリズムを保ってずっとやるだけ。たぶん最初は一気には難しいから、できる範囲まででやってみて?」
「……」
「パチュリー? どうしたの? あ、もう疲れちゃったかな。初めてだと、大変よね」
「え!? だ、大丈夫よ全然問題ないわ、まだ戦えるわ諦めないわ勝つまでは」
「無理しないでね。じゃ、手離すから、しばらくそんな感じでやってみて?」
「あ……」
 ……しゃかしゃか。
 しゃかしゃか。
「そうそう、そんな感じ」
 しゃかしゃか。
「……ぅ」
「うん、あとは私がするわ。もう、手が痛いでしょ?」
「アリス、いつもこんなことしてるのね……甘く見てたわ」
「慣れの問題よ、大丈夫」

 しゃかしゃかしゃかしゃか。
 しゃかしゃかしゃか。
 ふふんふんふーん♪
 ……じー。
 んーんーふふーんーはー♪
「……」
「……! ……そ、その、単調な時間はちょっと、暇だから、リズムにのったメロディを考える習慣があるのよ……」
「……」
「ちょっと、もう。何そんなに笑ってるのよっ……うう。油断したわ」
「え……笑ってないわ。笑ってないわよ」
「嘘。さっきすごくじーっと見つめてきてて……えっと、すごく……」
 すごく、嬉しそうに微笑んでいたのに。
 ――ぼん、と赤くなったアリスは、ついと視線を逸らせて、作業に戻る。
「と、とにかく終わるまで手は止めないで一気にやることが大切なのよ。メレンゲ作り以降はいかに短時間で作業を進めるかが仕上げにかかってくるからっ」
「……」
 また、言葉が返ってこない。
 ちら、とこっそりパチュリーの様子を眺めると、パチュリーは片手では頬に手を当てて、もう一方の手では頬をつねってむにーっと伸ばしていた。
 とりあえずまた視線をボウルの中に戻す。見なかったことにしておく。
「……ねえアリス」
「……な、なに?」
「いつも、こんなに頑張ってくれてたのね。……ありがとう」
「うえ……う。あー……改まってお礼言われると、その、えっと、大丈夫よ好きでやってることだから」
「ねえ。ちょっと、砂糖多めに入れてもいい?」
「……え? えーと……焼き時間とか調整が難しくなっちゃうからあんまりお勧めはしないけど、好みなら多少は大丈夫よ。今日は私がいるからなんとかなると思うし。……でも、今のでいつもパチュリーに出している味と同じよ?」
 パチュリーは、ふい、と下を向いた。
 手元の作りかけの生地を見つめる。
「……今日は、ちょっと甘めの気分だから」
 ぽそりと小さい声で言ったが、確かに聞こえた。
 ちょっと手元が狂って、メレンゲが少しこぼれた。



『文』

 イメージトレーニング。
 何をイメージしているのかは……