さくら、さくら。

 一本の太い木に手を伸ばす。
 桜の季節からもっとも遠いこの時期に、満開に咲いた花に思いを馳せる。
 それは思い出ではない。夢想でしかない。ここの桜は、一度たりとも咲いたことはないのだから。
 今まではただそういうものだと思ってさほど気にしてはいなかった。のだが。
「次の春は楽しみね」

 面白い本を読んだ。
 曰く、この木の下には何かが封印されていて、それが理由でなんだかんだあって花が咲かないらしい。
 ということは何かしらやって無理やり咲かせてしまえば何か面白いことが起きて何かが復活するかもしれない。
 うむ、わかりやすい。
「たまには日常に変化がないとね。ボケてしまうわ〜」
 あとは、手段。
「素質は、問題はないと思うんだけど」

 妖夢もここに来てから何年か経った。
 剣の扱いはなかなかのもので、それなりの度胸もある。
 ただ、足りないものも多数ある。現状ではまだ、作戦遂行を任せるには若干の不安が残る。
「その、足りないところも可愛くていいんだけどね。そうも言っていられない、か」
 妖夢には、もう少し成長してもらわないと。
 大丈夫。
 多少の無茶ならあの子は耐えられる。実験済みだ。

「何か悪巧みをしてそうな顔ねえ」
「わ、紫」
 背後から、気配なく親友の紫が現れた。
 紫に関して言えば、どこにでも急に現れることができるわけで、気配もなにも関係ないのだが。
「暇つぶしはいいけど、私の仕事を増やすようなことはしないでよ?」
 心配そうな声でいう。
 紫は心配性だ。いつも挨拶代わりみたいにこんなことを言っている。
「大丈夫、大丈夫。なんとなく大丈夫」
「欠片も説得力のない言葉なんだけど」
「今に始まったことじゃないでしょ」
「いばるな」
 ため息をつく紫を安心させたくて、微笑みかける。
「ちょっとだけ、世界が華やかになるだけ。これも教育の一環なのよ」
「うん、ちょっと何を言ってるかわからない」
「そんなことより」
「答える気なしときた」
「味覚の秋って言葉知ってる? 紫」
「知らない。さようなら」
「秋刀魚とか舞茸とか、一番美味しい時期なのよねえ」
「それはよかったわね。さようなら」
「というわけで、秋刀魚と舞茸、あとシラスとシメジ、あたりでいいわ。出して〜♪」
「人を何でも出てくる便利なポケット扱いすなっ」
 紫は、睨みつけて怒鳴ってきた。
 なんか怒っているみたいだ。
 たまによくわからない怒り方をする。変な子だ。
「……はあ。とにかく私はもうすぐ寝るから、できれば大人しくしててよ」
「秋の味覚まだ〜?」
「話を聞け」



*********************************



 す……と、まっすぐ、上段に刀を構える。
 研ぎ澄まされた感覚が、切っ先の経路と、移動すべき距離、方向、速度を全て正確に教えてくれる。
 今日は調子がいい。イメージに揺らぎがない。
 刀を振りかぶって、踏み込む。
 振り下ろす。さらに踏み込む。突き上げる。さらに踏み込む。撫で下ろす。
 最後の一太刀を終えると、そのまま静かに止まる。

 感覚的には十分な残心を取った後、刀を鞘に収める。同時に、背後でがさりと枝葉が地面に敷き詰められた石と擦れ合う音を聞く。
 振り返るまでもない、成功を確信していた。ここ何ヶ月かでは一番の出来だった。
 ゆっくりと息を吐いて、力を抜く。わずか数秒間の仕事だったが、筋肉に、そして精神に与える負担は決して軽くはない。
 だが、それでこそ、この一仕事を終えたときの充実感は計り知れない。口元を緩める。

「よし」
 満足して、自分に合格点を与える。この感覚を覚えておきたい。
「器用なものねえ」
「これが、仕事だから」
「ふーん。でも私はちゃんとハサミを使うことをお勧めするわ。正確だし」
「こっちのほうが早くて楽で――」
 ……
 聞こえてきた声に適当に返事を返してから、ようやく私は、ここにいるはずのない人がいることに気づいた。
 振り向くと、幽香が傘をさして立っていた。

「なぜあなたがここに?」
「ん? ほらほら侵入者。退治しなくていいの?」
「――庭を荒らす意図がないのならば、特に」
「急に荒らしてみたくなってきたわ。よーし」
「やめてくださいお願いします」
「ち」
「ちって」
「まあいいわ。私だってわざわざこんなところまで戦争しに来たりはしないわよ。リロ……リンダ……いやリンカー……あんたの主人に頼まれて、花を届けに来たわけ」
「幽々子さまに?」
「そうそう幽々子。惜しいわね、紙一重」
「何十回折り曲げた紙ですか」
 なぜ最悪でもリだけは合ってると思っていたのかというか、それ以前に日本人の名前がでてきそうになかった気がする。
「届けに来たって、何も持っていないように見えますが」
「あら」
 幽香は首を傾げる。
 ふい、と指先を動かすと、一瞬にして、私の腕の中がバラの花で埋め尽くされた。
「わわっ……」
「私の能力のことをお忘れで?」
「……よくわかりました」
「花が必要になったらいつでも気軽に声をかけなさい。棺桶に入ったときなんかに大活躍よ」
「私はいつでも半分足を突っ込んでるようなものです」
 というか、いちいち例が物騒な。

「それにしても、幽々子様が花を? 今度は華道でも始めるんでしょうか」
「ノン。この家にも花畑をってことみたい。といっても」
 幽香は、ぐるっと一度体を回す。
 傘を持たないほうの手を広げる。
「一面、よく整備された日本庭園ね」
「ええ。自慢の庭です。あなたにもこの美しさがわかりますか」
「全然」
「……」
「少なくともこの空間に花畑は合わないってこと。作るとしたら別の場所かしらね」
「何の花を?」
「色々あるけどね。まずは今の季節、そしてこの場所にぴったりの花はもうこれしかないっていうのがあって」
「彼岸花とかですか」
「……先回りされるのは不愉快ねえ」
「あ、い、いえ。本当に正解とは思わなかったというか、そんな単純ではないだろうと思っていたというか」
 にこ。
 幽香は晴れやかに笑った。あ。危険な香り。
「そうなの、私みたいなお花の妖怪は頭の中までお花畑だからとっても単純なの」
「いやいやそんなつもりでは」
「いいのいいの。それじゃリ……優子に会ってくるから、あなたは仕事頑張ってね」
「幽々子さま、です」
 またリって言ったし。
「それと、気をつけて。美しい花には棘があるって言うから」
「……? はい」
 割と耳にする言葉だった。改めて教えてもらうまでもなく、意味も知っている。
 わからないのは、なぜ唐突にそんなことを言ったのだろうということだ。あまり、いい予感のする言葉ではない。
 立ち去っていく幽香の後姿を眺めながら、これはどういう伏線なのだろうかと、この先のことに思いを馳せるのだった。

 ――ふう。

 歩き出そうとして、そういえばと腕の中に満載のバラのことを思い出す。
 綺麗だし、せっかくだからどこかに飾ってみるのもいいかもしれない。とりあえずは近くにあった石の上にそっとバラを下ろす。
 そして目に映る、バラが去ったあともなお美しく赤く染まった手。
 おお、最近のバラは手まで染めてしまうほど活性なのか、ってそんなわけはなく、どう見ても出血です。
「なんじゃこりゃあああ!」
 一応叫んでおいて。
 さっきの言葉が比喩表現でもなんでもなくそのまんまの意味だということが明らかになって、むしろ心は晴れ晴れしたのであった――いや嘘です痛い結構痛い。



*********************************



「綺麗ねー」
「そうですね」
 私は素直な気持ちで、幽々子さまの言葉に応える。

 庭からは少し離れた場所、これまでは更地だったところが、あっという今に花畑に変身していた。
 あのあとどんな打ち合わせがあったのかは知らないが、結果として今咲き誇っている花はコスモスだった。無難ではある。
「どう? どう?」
 幽々子さまは、花畑に向かって手を広げながら、私の目を覗き込みながら言う。
「どうと言いますと」
「一面に広がる美しい花。こう、乙女心をくすぐられない?」
「……」
 おとめ……ごころ……?
 ……はたしてどんな意味の言葉だったか。
 変わりやすいもの、という意味を表す表現だったか。女心と秋の空。あ、微妙に違う。乙が足りない。乙。
 そもそもおとめとは。乙の女。乙は確か二番目を表す表現だ。つまり二番目の女。愛人のことか。乙女心=愛人の心。
 なんだろう。嫉妬とか恨みとかだろうか。逆に謙虚とか献身とかかもしれない。難しい。
「何か間違ったこと考えてるでしょ」
 私もそう思う。

「いい、乙女心っていうのはね……」
 諭すように指を立てて幽々子さまは話し始める。
 が、すぐにその言葉はぴたっと止まる。
 ……概ね十秒ほどが経過。
「というのは?」
「……まあ、つまり、ふわふわしてきらきらしてキュンとするものなのよ」
「……ふわふわして、きらきらして、きゅん……?」
「そう。ふわきらキュン。HKK」
 なぜ略した。
 いや、略はいい。とりあえずふわふわしてきらきらしてきゅんなのだ。
 ……
「他はイメージできますが、きゅんがよくわかりません」
「キュンとするのはね――そう、ドキドキしたり心臓が締め付けられるような思いのことよ」
 狭心症のことだろうか。
 ううむ。難しい。

 ふわふわして……
 きらきらして……
 心臓が締め付けられるような……
 ……
 光化学スモッグのような何かだろうか。
「何か間違ったこと考えてるでしょ」
 私もそう思う。



「妖夢のいいところー」
「え?」
 幽々子さまは唐突に言い出した。
 びし、と指を一本立てる。
「真面目で、仕事ができて、風流がわかる」
「……」
「刀の扱いは上手くて、主人に忠実で、急な任務も着実にこなす」
「……」
「それに――どうしたのよ、変な顔して」
「あ、い、いえ、ありがとうございます。もったいないお言葉です。光栄です」
 むしろちょっと気持ち悪いです。
 どういう風の吹き回しか、とはまさにこんなときのためにある表現なのだろう。
 いやもちろん嬉しいのだが、というか嬉しくて舞い上がってしまいそうなのだが、それ以上にあまりに珍しいことなので戸惑いも激しい。
 いつもどこがダメだとかいけないとか言われることはあっても、こうしてはっきりとここがいいと言われるようなことはなかった。

 実際、言ってもらえると……嬉しいものだ。でも、恥ずかしい。そして珍しいことだけに不安にもなる。
 つまり、何かの伏線なのではないかと。
「だけどね、私はそんな妖夢が心配なの」
「心配?」
「そう、例えば。妖夢の好きな食べ物は?」
「……特にこれといってこだわりはありませんが、強いて言うならば、ごはんが一番です。炊きたてのごはんに敵うものはありません」
「では、好きなお菓子は?」
「おはぎは好きですね」
「最近読んだ本は?」
「孟子を。大変ためになります」
「花といえば?」
「やはり、桜ですね。長く耐えて、一瞬の煌きを見せた後、潔く散る。かくありたいと思います」
「だから渋いのよおおおお!!」
 びくっ。
 幽々子さまが叫んだ。
 珍しいことなので、不覚にも思い切り震えてしまった。
「いえ、いえ。いいことなのよ。理想的といってもいいくらい」
「は、はい……」
 少し身を引きながらも、返事はする。

「今まではそれで何の問題もなかったわ。でも最近、外の世界との境界が薄くなってきて、私たちも向こう側に行く機会も増えたじゃない」
「そうですね」
「あまり求道者として真っ直ぐなだけだと、危ないのよねー」
「危ない、ですか」
「ここは幽霊ばっかりだから、どちらかといえば個性の薄い人たちが多いんだけど」
「死んでしまうと、生前の個性を失うということでしょうか?」
 私は生まれながらに半分死んでいる状態なので、いまいち実感がわかない。
「できることが急に限られちゃうからね。仕方ないことだわ。ただ、それ以外に、本当に極まってる子はここには来ないか、留まってはいないから」
「そういうものですか」
「そういうもの。外の世界は、そんな生真面目だけではうまくいかないわよー」
「生真面目……」
 私自身は、そんなつもりはなかったりする。
 幽々子さまに言われるほど一筋に求道しているつもりもなく、ただ与えられた仕事をよりよくこなそうと思っているだけだ。
「妖夢、私や紫が変わり者だと思ってるでしょう?」
「え」
 思ってます。
「甘いわよー。外の世界に出れば、私や紫みたいなのがごろごろ転がってるんだから」
 この世の終わりだ。
 ……
 ん? ここはあの世だから問題ないのか?
 いやいや外の世界の話だからやっぱりこの世か。ここからいえばあっちがあの世でこっちがこの世になるわけだけどつまり終わるのはあっちであってこっちではないこの世だ。
 とはいえ、あっちはあっちでうまく動いているのだから、意外に問題はないのかもしれない。
「頑張ってる子だったら優しく見守ってくれる、なんてほどのんびりした世界じゃないのよね、気をつけないと」
「なるほど、それはわかるような気がします」
 命が有限な世界と、もう過ぎ去った後のこちらの世界では当然時間に対する感覚はまったく異なるものだろう。

「――つまり、私に足りないものは、人、つまり生きている人に対する知識や感覚であると」
「そうねえ。究極的には対人折衝力を鍛えてもらわないといけないんだけど」
 うんうん。と、真面目な顔で頷く幽々子さま。
「ただ、そのあたりはある程度場数を踏まないとどうしようもなかったりするからね。で、いきなり外の世界に揉まれまくると大変だから」
 ふむふむ。
「まずは世界観を広げてもらおうと思って」
 おお、なるほど。理にかなっている。
「で、乙女心なのよ」
 ここでよくわからなくなった。


「結局のところ、乙女とは何なのでしょう」
「その問いに対する素晴らしい答えを私は持っているわ……でもそれを説明するためには余白が狭すぎるの」
「……」
 よくわかってないということらしい。
「では、花畑を作ることと乙女との関係は何でしょうか」
「だって、乙女といえば、あれじゃない。とりあえず太陽の下で、花畑の中を笑いながら内股で駆け抜けて、地面に横になって小さな一輪の花に語りかけるものなのよ」
「……それは少し残念な人なのではないかと」
「幽香まだそのあたりにいるかしら。ゆーかーーー」
「あああごめんなさい」
 というか、幽香はそんなことをしているのか。
 ……
 あの、幽香が。
 ……
 想像が……
「というわけで、花畑の世話は妖夢の仕事よ」
「え。いえ、それは構いませんが、花の世話などしたことがありません」
「最初は幽香が教えてくれるから大丈夫よー」
「……ずいぶんと協力的ですね、幽香」
 先日、まあこっちの、というか幽々子さまの遊びのせいで酷い目にあわされたわけだが、そのときから今までに何かあったというのだろうか。
「別に裏があるわけじゃないわ」
 不審に思ったのが、顔に出てしまっていたらしい。
「彼女は、人間も妖怪も敵か邪魔者か便利な道具くらいにしか思ってないし、ドSな歪んだ性格だけど、花のことになれば本気で優しく力になってくれるわ」
 なんと極端な。
「最初は慣れてなくて大変でしょうから、他の仕事は全部免除でいいわよ」
「え」
「それくらい、時間は取られるんじゃないかしら。たぶん」
 他の仕事。
 外出の付き添いやら細かい雑用やらもあるが、なんといっても本業は庭師だ。
 ……
 いや剣を教えるというのもあったはずだが、そっちの仕事はついぞやった覚えが無い。
「だいたいの指示をしてくれれば、他の幽霊たちでも庭の維持はなんとかなるでしょ」
「……」
 庭というのは、生き物だ。毎日姿を変える。
 美しさを保つというのは、地味ではあるが、決して簡単な仕事ではない。
「いえ。庭師の仕事だけは続けさせてください。他の幽霊たちには無理です」
 私にも、細かいこだわりを含めてこの庭を形作ってきたというプライドがある。
 この庭は、西行寺の庭であると同時に、私の庭でもある。
「さすがねえ」
 幽々子さまは、嬉しそうに言うのだった。
「日本の庭はこのまま極めてもらうとして、花畑の世話を通じて『いんぐりっしゅ・がーでん』も心得てもらって究極の庭師を目指すという道も悪くないかしら」
「究極の庭師」
 なんだか凄そうだ。無意味に。
「そう、アルティメット庭師。いえアルティメットガーデン……師」
 何か残った。
 ただ、確かに、他の文化の庭を知るきっかけになるかもしれない。
 そう思えば花畑の世話なんていう慣れないものも、是非やってみるべきというような気がしてきた。

「承知いたしました。花の管理もお任せください」
「うんうん。いい返事。立派な乙女になって帰ってくるのよ」
「異国に修行にでも出るかのような」



*********************************



 庭師の朝は早い。
 以下略。
「おはよう、妖夢」
「……おはようございます。早いですね」
 まだ日が昇ったところだ。
 幽香の住居からここまで来ようと思うと決して近くはないはずだ。真っ暗なうちから出発してきたのだろうか。
「こんなものでしょ。あなたも朝から修行、お疲れ様。いい心がけね」
「ありがとうございます」
「リンドバーグはまだ寝てるの?」
「……幽々子さまなら、まだあと3時間ほどは起きないと思います」
 誰だ。もはや。
「そう。まあいいわ、話は昨日のうちに通ってるだろうし。行くわよ」
「はい」
 約束していたわけでもなく、また、私の剣の練習がひと段落したというわけでもないのに、幽香は当然のようにそう言ってすぐに歩き始めた。
 いや、まあ、大丈夫だ。こういうことには慣れている。


「本当は種から育てるんだけど、今回はまずすぐに花畑が欲しいってことだったから、コスモスでうめてみたわ。半分はね」
「半分?」
「まだ残っているエリアがあるでしょう。あそこは、本当に種から。とりあえずは初心者向けのものを入れておいたわ」
「なるほど」
「さて、これからあなたが育てていくものはたくさんの小さな命。木よりも儚いものだから、気をつけて扱うことね」
「はい」
「ふふ、いい返事。あなたは真面目そうだから、期待できるわ」
「……」
 肝試しのときとは、というだけでなく、昨日会ったときとも幽香の雰囲気は全然違った。
 今日の幽香はよほど上機嫌なのか、微笑が絶えない。
 可愛らしい、と言ってもどこからも文句が来ないほど、優しい笑みだ。
 私はどうしても肝試しのときのことを思い出してしまうので、その笑みにも警戒感を抱いてしまう。
「どうしたの? 緊張してるとか?」
「あ、いえ……」
 戸惑っているのが伝わってしまったか、幽香が首を傾げる。
「大丈夫、大丈夫。あなたならできるわ」
 ぽん。肩に手を置かれる。
 励まされてしまった。
 とりあえず、私も微笑み返してみる。なんと言えばいいかわからなかったから。

「あら?」
 花畑の中を歩いていると、ふと幽香は立ち止まって、コスモスのほうを眺めて、首を傾げた。
「?」
「んんー……」
 じっと、同じ方向を眺めている。
 私も同じ方向を見てみる。
 特に何も面白いものは見当たらない。
「ま、いっか」
 幽香は顔を前方に戻して、すたすたと歩き出した。
 ……
 いやいやいや。
「とても、とても気になるんですが」
「ああ。気にしなくていいわよ。育てるのは私じゃないし」
「気になりすぎなんですがーっ!?」
「あ、ほら、猫、猫。可愛いわねえ。寄り添って歩いてるけど、カップルかしら。見せ付けてくれちゃって」
「わ、ほんとですね。珍しいですよね猫がこうやって並んで歩いているの」
 花畑を、のんびりと猫が歩く。
 なんとなく猫は走るイメージがあるためか、なおさら珍しく感じる。
「黒猫は不吉だなんて言いますけど、可愛いものです。ここに来ているということは猫も花が好きなんでしょうか……って、いやいや」
 和気藹々と猫トークしている場合ではない。
「そんなことより今の気になることを」
「最近ちょっと目の疲れが気になるのよねえ」
「幽香の体のことはどうでもよくて」
 ……

 結局。
 その後何を聞いても、細かいことだからどうでもいいとはぐらかされるだけだった。



「気をつける点は5つ。水、栄養、日光、虫、病気」
 幽香は、掌を私の方に向けて、一本ずつ指を折り曲げて言った。
「どれも、花の種類によって個性が全然違うから難しいけど、今回は初心者向けだから覚えるのは簡単よ。コスモスはもう咲いてるから、ほとんど手は掛からないしね」
「そうなんですか」
「花は咲くまでが勝負なのよ。どんな生き物だってそうでしょ。ある程度まで育てばあとは自分で生きる術を手に入れるから」
 優しく微笑みながら、幽香は言う。
「私たちがすべきことは、ひとり立ちできるまで支えてあげること。そんないい親になることよ」
「はい」
 うーん。
 目が輝いている。
「もちろん、全ての命がその一生を十分にまっとうできるわけじゃないわ。それは仕方の無いことなの。私たちは全ての命を支配できるわけじゃない、ただ少し力を貸すことができるだけ――いえ、そうね、冥界で話すようなことじゃないかしら」
 くすくすと幽香が笑う。
「育てるからには監督責任はあるけれど、全ての命に責任を持つなんて考え方は傲慢ね。私たちは一緒に生きて、一緒に楽しむの。ただ、命の長さが全然違うし、私たちのほうが強いから手を貸せるだけ」
 どうしよう。口を挟む暇がないくらい喋り続けてる。
 すんごい楽しそうに。
「子供と一緒に親も成長していかないと、お互い不幸になるわ。気をつけなさい」
 楽しそうに。
「あなたは庭師をやっているから、わかっているかもしれないけど。時には冷徹になる必要もあるからね。限られた資源の中で最大の幸福を得ることが、私たちの目指すこと」
「綺麗な花の裏にも、必ずドラマがあるのよ。これから一緒に物語を作っていきましょう」
「さて、まずはコスモスの話をしましょう。秋の桜なんて書くとおり、今の季節の代表的な花ね。あなたもよく知っているでしょう」
「世話は必要ないと言ったけど、花の時期が終わるとすぐに摘み取ることになるわよ。一年草だから花が終わるとそこまで。そうしたら次の花を準備するから――」
「そもそもコスモスといっても種類はたくさんあって――」
「一般的な――」

 …………

 ……


「――ウィンターコスモスとも呼ばれるの。楽しみにしていてね」
「……」
「あら? もしかして聞いていなかった?」
 きらん。
「!? い、いいえいえいえ聞いてました、ましたから傘の先端を向けるのは勘弁して下さいっ!」
「そう。いい子だわ。それでね冬が終わるといよいよたくさんの花が一斉に咲き始める季節がやってきて――」
「まず春の訪れを告げるのは――」
「そして桜が咲く頃に――」
「私のおすすめは――」

 …………

 ……


「……」
 きらん。
「ふあっ!? だ、大丈夫です聞いてます、ひまわり大好きです!」
「そう。それは嬉しいわ。まだ夏の話はしてなかったんだけど」
「ひっ」



 約1時間後。
「細かいことはたくさんあるけど、当面の日常の仕事は一つだけ。これはよく覚えておいて」
「はい」
 大切なことは早めに言ってほしい。
 ……本当に。
「私たちの領域に侵入して、大切な子たちから栄養を奪っていく悪者の退治」
「悪者?」
 花を求める魔物が徘徊してきたりするのだろうか。
 なんとなく、ストローをくわえた(これで栄養を吸いだす)狼のような姿を想像する。
「――つまり、雑草の駆除」
 全然違った。
「あなたは、雑草もまた命だなんて言う子だったりする? 雑草なんて名前の草はない、とか」
「私は庭師です。雑草が大敵であるのは庭でも同じことです」
「そうだったわね。なら、大丈夫でしょう」
「それじゃ、頑張って。この花畑も私の子でもあるから、ちゃんと責任もって育ててね」
「……はい」
 失敗したらなんだか凄いことになりそうだ。
 私が。
 幽香は私の返事を確認すると、ひらひらと手を振ってから去っていった。

 ……
 さて。一人になって落ち着いたところで、改めて花畑を観察してみる。
 綺麗なコスモスがずらり整列している。
 残り半分は、まだ芽も出ていない花が植えられている。
 情報を整理しよう。
 当面、すべきことは何か。
「えーと、つまり」

 草むしりする場所が増えた。
 以上。



*********************************



 その日からしばらくは、実際のところたいした仕事はなかった。雑草もそうすぐに生えてくるものではない。
 日常は、
 起きて、刀の修行をして、
 花畑をゆったりと歩きながら眺め、
 帰ったら庭の手入れを始めて、
 それが終わったら夏から続いている幽々子さまとの精神鍛錬の修行を行って、
 へとへとになって一日が終わる、
 という感じで過ぎていった。
 ……
 さて、その例の修行なわけだが。



「あっ……ん」

「そこ、よ……気持ちいいわ……はぁ……ん♪」

「ん、ん……上手くなったわねえ」
「あ……ありがとうございます」
 もみもみ。
 後ろから相変わらずのボリュームの胸を揉みながら、答える。
 うまくなった、というのが自分ではなかなかわかりにくいものだが、確かにこのところ幽々子さまの反応はよくなってきている、ように思えた。
「あ、んっ……んんッ」
 それよりもなんといってもわかりやすい進歩は、私がかなり落ち着いていられるようになったということだった。
「や……ぁん、凄いわあ……あ、あ、んんぅっ」
「……」
 ……
 以前に比べれば、という前提条件付きで。
「んふ………おっぱい、きもちいい……♪」
「妖夢の手……やーらしい……♪」
「!? ゆ、幽々子さまがさせているんじゃ……ないですか……」
「やあねえ、あ、んんっ、だ、だれも、悪いなんて言ってないわよぉ」
 言われてるような気がしてしまうのである。
「いいわ、凄く……いいのっ」
 う、ううん。
 落ち着けているつもりでも、こんな声を聞いていると、やっぱり私もちょっとやられてしまう。
 この柔らかく重い感触も慣れてきたつもりでも、手に吸い付いてくるような甘い誘惑からは逃れがたい。
「あ、あ、いい、いいのっ、もっとぐりぐりしてえ……っ」
「……っ」

 もぞり。
 時折、こっそりと正座しているふともも同士をすり合わせてみる。
 そうすると微妙なところが擦れてちょっと気持ちいい。
 正座していて両手が塞がっていても、軽い刺激を与えることができてしまう。

「ぅ……っ」
 初めてこのことに気付いてから、これは危険だと感づいてなるべくやめようと思ったものの、やはりというか無意識に動いてしまうものだった。
 とろり、とふとももの内側を熱いものが伝うのを感じる。

「んふふぅ……♪」
「……う?」
 幽々子さまの声の調子が、少し変わった。
 ……
 変な動きをしていたのがバレてしまったかと、少し焦る。
「もう妖夢も、あんっ、慣れてきたみたいだし、第一段階は終了でいいかしら」
「え?」
 ぴた、と手の動きを止める。
 終了?
 いやむしろ。
 第一段階?

「どんな修行も、負荷が軽くなったら次の段階に進むのが普通でしょう」
「次の段階……」
「私もねえ、毎日おっぱいばっかり弄られてるだけだと、気持ちいいけど、結構辛いものだったのよ〜?」
「え、ええと」
「さあ、今日からが本番よ」
「あの」
「最初はサービス。ちゃんと導いてあげるから……しっかりやるのよ?」
 幽々子さまはそう言うと、スカートの裾を持って。
 ゆっくりと上げていく。

「わ、わ」
 少しずつ露になっていくふとももに動揺してしまって、慌てた声を出してしまう。
 やがて裾が完全にたくし上げられて、ふとももの付け根、の部分まで私からも見えるようになる。
 ……
 って。うわわ。
 幽々子さまは、さらに、足を開いていく。
 しっかりと目に映る肌色。
 幽々子さま。はいてない。
「はい……お願い」
 幽々子さまは私の右手を掴んで、そっと下ろしていく。
「あ、あの、ええと、つまりっ」
「なあに? ちゃんと言わせたいの? 妖夢も好きねえ」
「!?」
「うんうん。わかるわあ。その趣味」
「い、いえいえそういうことは決して全く」
「んふふ」
 そしてのんびりとした口調のまま。
 とんでもないことを言うのである。
「あぁん……お願い、もう我慢できないのっ! おまんこに突っ込んでぐちゅぐちゅしてえ……っ♪」
「にゃ!?」
 幽々子さまの言葉と同時に、ぐいっと引っ張られた手が、するりとそこにたどり着く。
「ん……っ♪」
「わ、わ」
 ぐちゅ。
 幽々子さまの言葉どおりの、湿った音がした。
「わ……ぁ……!?」
 すっかり濡れそぼっていることと、あまりの熱さに驚いて、一瞬固まってしまう。

 うわ。
 うわわ。
 うわわわわあ。
 これが。幽々子さまの。あれなのか。
 こんなにも熱いものなのか。

 ……ぐに。
 幽々子さまに言われる前に、指を軽く曲げて、表面を撫でる。
 にゅるりと指が滑る。
「あああ、んんッ!」
「ひゃ!?」
 今までより一段高い幽々子さまの声に驚いて、私も素っ頓狂な声を出してしまった。
 手もぴたりと止まる。
 ……
 な、なにかまずいことをしてしまっただろうか。
「ああん、やめないで」
「は……はい」
 問題なかったらしい。
 恐る恐る、もう一度同じように動いてみる。

 にゅる。

「ん……っ、あ、ああッ」
「……」
 ごくり。
 触っているほうが気持ちいいほど、ぬるぬると滑る。
 すごい。なんだか、すごい。
 柔らかくて、熱い。
「あっ、ぅ……くぅんっ」
 人差し指と中指でゆっくりと押したり擦ったりしてみる。
 驚くほどに指は深くまで沈んで、さらに離すまいとするかのように吸い付いてくる。
「は……ぁん、ん」
 触っているうちに、だんだんどこがどうなっているのか把握してくる。私のそれと柔らかさも熱さも全然違うことに戸惑っていたが、基本的な造りは同じはずなのだ。
 押し付けたまま、そっと指の間を広げてみる。
「あ……んんっ!」
「……」
 ごく。
 同じだとしたら……
 手探りで、膨れ上がった小さな突起を探り当てる。
「ふぁああッ!?」
 びく、と幽々子さまの体が跳ねる。
 あ……当たりだ。
 指の間に挟みこんで、ぐりぐりと擦り合わせてみる。
「ひゃ、あ、あぅっ、んああああんッ!」
 やっぱり。
 一緒なんだ……
 ……ごく。

「あぅ、凄い……ぁ、んっ! 妖夢、上手い……じゃない……っ」
「……はぁ……はあ」
 幽々子さまの反応が、一段と強烈になっていく。
 ……うう。
 もぞもぞとふとももを擦り合わせてみる。
 こちらももう、同じくらいとろとろだ。
 ぐり。ぐりぐり。
 指で幽々子さまのそこを押し付け、こねくり回す。
「あ、ぅ、う、うぅうん――ッ! ひゃうんっ」
「っ……は、う、ぅ……」
 くらくらしてくる。
 後ろから触っていることもあって、指の感覚的には自分のものを触っているときとあまりかわらない。
 なのに、私にはその刺激は来ない。
「あ、あ、ぅ、すご、も、もう、ちょっと……でっ!」

 ……
 ……ちょ、ちょっと……だけ……
 すす、と足を広げる。
 そうだ。左手は今は空いている……

「ん――う、ぅ、うああっ」
「は、ぁ……んんんッ」
 くちゅ。
「――――っ!!」
「は――あ、あ――あああぅ」
「――っ、あん、……ッ!」

 ぐしゅ。ぐりぐり。
 つまんで。まわして。こねて。
 左手と右手で、同じように動かしてみる。
 熱くて熱くて、ぬるぬるで、ぐちゃぐちゃで、とてもいやらしい。

「あ、も、う、きちゃう――う、ぅ――!」
 幽々子さまの声を聞いて、私は。
 左手のペースを、速めた。

「う――く、あ、ああ……ッ」
 もう余計なことなんて考えない。
 必死に両手を動かすだけ。
 速く、速く。
 ぐにぐにと。

 両方の指で互いに異なる熱を感じながら、昇ってくる衝撃に身を備える。
 ぐちゅ、ぐちゅっ、ぐちゅっ!
 だんだん。

 もうすぐ。
 もう。

 ぞわぞわと。なにかがせりあがってきて。
 ぞくぞくと。背筋が震えて。
 もう……

 もう――っ

「あ、あ――あ、――――――ッ!!」
「くっ――う……っ!」

 幽々子さまの体が、がくんと、前に折れた。
 私はそれに逆らわず、覆いかぶさる。
 幽々子さまの甲高い声を耳元で聞きながら、私もまた鋭い絶頂に溺れていく。
 正座している足が、がくがくと震える。

「は……ぁ……あ……」
「は、う……」
「はぁ……はぁ」
「く……ふぅ……」

 どく。どく。どく。
 背中につけた耳で幽々子さまの速い鼓動を感じながら、ゆったりと絶頂の余韻に浸る。
「……うふ……凄いじゃない……よかったわあ」
「は……はい……ありがとうございます」
 幽々子さまの言葉を合図に。
 すっかり疲れてしまった手をそっと引っ込める。
 ……
 そして、はっと気付いて、慌ててもたれかかったままの体を起こそうとする。
「ふふ。そのままでいいわよ」
「……あ……ありがとうございます」
 では。
 ここはお言葉に甘えることにした。

 暖かい背中だなあ、と感じながら――
 少しずつ、眠りに落ちていった。



「上手だったわー。満足満足」
「ありがとうございます」
 幽々子さまを枕代わりにしたまま眠ってしまったことに気付いて、ひたすらに平謝りした後。
 そんなことは意にも介さないように、幽々子さまは上機嫌で言った。
「うんうん」
 上機嫌のまま、しかし。
「でも、不合格ー」
「えっ?」
「えっじゃないわよう。はい問題。これは何の修行でしょう」
「……精神鍛錬です」
「そう」
 幽々子さまは、には、と笑う。
「妖夢がひとりえっち大好きなのはわかるけど、終わって帰るまでは我慢しなきゃダメよ〜」
「!?!?!」
 え。ええ。ええと。
 えっと!?
 えっとつまりえっとそういう……
 ……ぎゃあ。
「だっ、べ、別に、決して、そんなことはありませんっ!」
「えっもう好きとかそういう次元を通り越しちゃった? 人生?」
「なんでですかっ!?」
「ま、さておくとして、バレてないと思っていたのなら認識が甘すぎるわねえ。問題点がたくさんあるわ」
「……うう……申し訳ございません……」
 これまた。申し開きできない。
「というわけで、修行はまだまだ続くのよ」
「……はい」
 うふふ。と、また晴れやかな笑みを見せてくれる。
 表情からは、いつものことながら、真意は読み取りにくい。
「だから、これからもよろしくねえ」
「……は、はい」



*********************************



「はろう」
「おはようございます」
 幽香は今日も朝からやってくる。

「コスモス、元気に咲き続けてるわね。こっちの世界でもちゃんと問題なく生きていけるみたい」
 ご機嫌に、明るい声で言う。
 こうして普通に話をしていると、初めて会ったときのほうが何か冗談だったのではないかと思ってしまう。それほどに、なんというか、そう。普通の、おねえさん、だ。
「ざっと見てきたけど、あっちの一角はちょっとだけ水をやったほうがいいかしらね。それくらい。あとは問題ないわ」
「それはよかったです」
「うんうん。いい調子。これからもよろしくね」
「はい」

 それだけ言うと、幽香は去っていった。
 ……それだけのために、来たんだなあ。

 幽香があまりに気軽に入ってきているから忘れそうになるが、本来こっちとあっちの世界はそう簡単に行き来できるものではない。
 確かに最近世界の境界が少し薄くなっているのだが、もちろん誰でも超えられるわけではない。幽霊たちは簡単には侵入を許さない。
 十分な実力があったとしても、面倒だ。
 だいたい、遠い。ここにいた時間より往復の時間のほうが長いのではなかろうか。
 少なくとも私が見ている限り、幽香がそんなに高速で移動しているところを見たことがない。
「……花が好きなんだなあ。本当に」
 半ば感嘆し、半ば呆れながらため息をつく。
「まあ、私は私だ」
 さて。
 水をやりにいこう。



「うん。綺麗綺麗」
 水遣りが終わって、改めて花畑をゆっくりと眺める。
 もうすっかり見慣れた光景だったが、やはり綺麗でいいなあと思う。
 幽香によれば、コスモスの季節はもうすぐ終わりらしい。そして、それはつまり秋の終わりということだ、とか。
 もうすぐ見納めになるかと思うと、やはり改めて眺めてみたくなるものだ。

 歩きながら、見て回ってみる。
 ゆっくりと。
 真っ赤で。いっぱい咲いていて。
 だんだん、楽しくなってくる。

「真っ赤」
 ずらりと並んだコスモス。
 綺麗だなあ。

 うふふ。
「うふふ」

 ああ。
 とても幸せな気分。
 楽しい。

 あ、もしかしてこれが、いわゆる乙女心なのだろうか。

「んふ……♪」
 そうかこういうことなのか。
 楽しいじゃないか。
 心の底から笑みが浮かんできて止まらない。
「あはは……はははっ♪」
 そう。両手を広げてこの花畑の中を駆け回るのなんて楽しそうだ。歌なんて歌いながら。
「にゅふ……にふ、ぬふふ」
 もう、笑いが止まらない。
 花ってなんて凄いんだろう。こんなに楽しいものだったのか。
「は、あはははあははははは、あはははは」

 …………
 ……

 いやいやいやいやいやいや。
 さすがにおかしいって! この状態!
「わは? ひゃ、うひゃ、ひゃひゃひゃひゃ」
 笑いが。
 本当に。止まりません。

「うひゃひゃ」
 ちょっと、これ、どうしよう。
 いったい何が。
 うひゃ。
 ……

 あれ?
 うん。

「うふ、あは、あははっ、ひゃっはー」
 うん。
 こんなに楽しいのに。
 何を戸惑う必要があるの?

「らーらー、らーるったららーん。あははっ♪」
 お花に囲まれて、大声で歌って。
 気持ちいいなあ。

 あは。
 あはははは。

 はは。

 ……



 聞いたところによると、私は笑ったまま眠っていたらしい。

「魔法の花?」
「うん。混ぜておいたの」
「ええと」
 まったく悪びれる様子のない幽々子さまに対して、私が言えることといえば。
 といえば。
「……なぜ?」
「修行」
 うん。
 とっても簡潔。
 何の修行なのか謎だけど。
「平常心を鍛えるんでしょ?」



*********************************



 ということらしく。
 花畑の世話ですら修行の場として設定されていたと判明して、一日中本気で気が抜けないということがわかった。
「うーん」
 今度は警戒しながら花畑を覗いてみながら、歩く。
「何か始めようとしてるのはわかるんだけど……かなり駆け足だなあ」
 まったく新しい修行メニューが短期間に二つも増えるというのは、今までにはなかったことだった。
 何かかなり大事が始まるのだろうか。
 まさか、本当に領土拡大でも目指しているのだろうか……
 ……いや。だとして、私を鍛えたところでたいした戦力増強にはならないわけで。
「うーん。まあ、いいか。幽々子さまの考えはそう簡単にはわからないことだし」
 そして。
 いつもどおり、少し悩んだところで、考えるの終了。

 さあさあ。雑草がちらほら見えるようになってきた。
 草むしりのお時間だ。

 ……
 ぷちぷち。
 小さい草でも、根っこはかなり伸びているものだ。
「雑草はたくましいなあ」
 ぷちぷち。
 ぷちぷち。
 雑草ぬきぬき。
 雑草退治は刀で一掃というわけにはいかなくて、地道にするしかないのが少し大変なところだ。
 こういう作業は、一定のリズムで無心にやっていくに限る。

 ぷちぷち。
 ぷちぷち。
 あ、そーれ。

「ぷちぷち」
 ぷちぷち。

「ぷっちぷっち」
 ぷっちぷっち。
 こうしてリズムよくやっていけば、作業もまた楽し。

「うんうん。いい調子。これならすぐに終わるぞー」

「ぷちぷち。ぷちぷち……うふふ」
 今日はいつもより調子がいい。
 頭の中で音楽が流れ出して、調子を整えてくれる。

「ふんふーん♪ ぷちぷちー」
 慣れればほら。草むしりだってこんなに楽しい。
 これだけ楽しくやれればもう、達人の領域に届いているような気がする。

 ああ。もう。楽しくて仕方がない。
 ずっとむしっていたいっ!

「ふっふふー。私は〜、草むしりの〜、てんさー……」

「……」

「はっ!?」
 ぶんぶん。
 首を横に振る。
 振りまくる。

「あ、危ない、またしてもやられてしまうところだっわひゃひゃ」

「二度目はもうないぞ……くふ、くふふふ」

「私はあはは同じ手にそうにゃふ、何回も、にゃっはっは」

「わっほーい」

 うん。
 だめだこりゃ。

「楽しい楽しい草むしり、あははっ」
「幸せいっぱいね」
「にゃひゃあ!?」
 急に声が来たので。
 変な声が出てしまった。
「ゆ、幽香!? いや、これは、私は、あの」
 取り乱してしまう。
 とりあえず言い訳をしようと思っているのだが、頭もうまく回っていない。なんというか、ダメだ。既に五手先の詰みが見えている。
「……ひゃはは♪」
「絶好調ね。コスモスたちも楽しそう」
「う、うふふ、あ、あの、幽香、あんまり、ここにいると、あはははっ」
「ああ。心配しないで。私は平気だから」
 ひら、と幽香は軽く手を振る。
 幽香がそういうからには平気なのだろう。
 なぜ、と聞く気にはなれなかった。
「りゆこも変なこと考えるわねえ。これはかなり辛いでしょうに」
 だからなんでそこまで「り」にこだわるのかっていうかもはやわざとではないかと。
 ……ひゃは。
「く、く……うう。わ、はははは」
「はい、これかじって」
「わひゃ?」
 私が返事をしたと同時に。
 幽香に、なにやら口元に突っ込まれた。
「しっかり噛んでから、飲み込んで」
「ひゃう」
 何かの草のようなもの、のように感じる。
 そして、苦い。
 口がどうしても開いてしまうのでなかなか噛めなかったが、指示通りゆっくりと何度も噛む。
 ……苦い。
「はい、飲み込む」
「ん」
 ごくん。
 謎の何かが、喉を通っていった。
「深呼吸」
「すうはあ。すうはあ」
「はい、大丈夫」
「……」

「……あ」
 笑いが、止まった。
 ぴたりと。

「なんと。ぴたっとなんともなくなりました」
「気付け薬みたいなものだから、ずっとここにいるとまた同じ目にあっちゃうけどね」
「なるほど。ありがとうございます。……あ、でも、修行なのにこんな逃げ方しては、いけません」
「あの状態だったらもうゲームオーバーでしょうに。大人しく再挑戦したほうが意味があるでしょ」
 幽香の言葉は、もっともだと思う。一理ある、と思う。
 でも、それは私のやり方ではなかった。
「気を失うまでは、終わりではありません。諦めない限り、道は開けるものです」
「そう。私がやったことは邪魔で迷惑だったと」
「あ、いえ、そういうわけでは……すみません」
 つん。
 幽香は、私の額を人差し指でつついた。
 思わず、びくっと震えてしまう。緩慢な動きなのに、なぜか避けられなかった。
「許さない。ちょっとした罰として私の新居作りの材料になるレンガ2トンを15kmほど運ぶ仕事を命じるわ」
「ちょっとした罰、重っ!」
 二重の意味で。

「まあ……そうですね、すみません。助かりました。改めて修行しなおします」
「真面目ねえ。たまには肩とか関節とか筋肉とか脳血流とか三半規管とか力抜かないとバテちゃうわよ」
 なんかとても難しい技術を要求されたような気がする。
「大丈夫です。こうして今までやってきてますから」
「そう。私は花さえちゃんと育ってくれればそれでいいんだけど」
 ふい、と幽香は顔を上げて、簡単に周囲を見渡す。
 ん、と小さく呟いた。
「今日も見た感じ、何も問題はないわね。その点においては信頼しているわ」
「……ありがとうございます」
 ううん。
 褒められると、どうしても警戒してしまう、私。
「じゃあね」
 そして幽香はまた、一言だけ残して、去っていく。
 相変わらず去り際はとても早い。

 ……
 あ。

「幽香!」
「ん?」
「……薬。どうして、持っていたんですか」
「ん」
「もしかして、私がこんな状況だと予想して、助けにきてくれたのですか……?」
「あら。本気で言ってる?」
「……まさかとは思いましたが、そうなのかなと」
「言ってるじゃない。私が興味あるのは花だけよ」
 幽香は、くす、と笑った。
 それはそれは、可愛らしい顔で。
「自惚れないの。ばーか」
「なっ」

 ……行ってしまった。
 むう。
 誤魔化されたような気がする。
「失言だったなあ。ああいうのがダメなのかもしれない、私」
 助けられたことは素直に受け入れないと。
 まだまだ挑戦は続くわけだし、一度一度にそんなにこだわりすぎることもないのに。
 まあ、気にしていても仕方ないか。
 さあ、仕事の続きと修行の続きだ。
 実質三度目の挑戦だ。今度こそ負けるわけにはいかない。
「よし、がんばるぞ……うふ」

 あ。
 なんだかダメな予感。

 にゃはは。



*********************************



「……ふう。心地いい疲労感」
「は……はい」
 ふきふき。
 冷たい水で手を洗ってぬめりを落として、布切れでふき取る。
 例の後ろからごにょごにょする修行のほうも、長く続いてきた。……何度やってきていても、恥ずかしいのは恥ずかしいものだ。
「相変わらず上手いんだけど、心の乱れやすさも相変わらずねえ」
「……返す言葉もございません」
「うん、でも、少しずつ落ち着いてきてるみたいだし、もうちょっとでいいんじゃないかしら」
 真面目な顔で。
「エッチしてる途中にあまり冷静になりすぎるのも間違いだし」
「はあ……」
 露骨に言われると、ちょっと恥ずかしい。
 散々やったあとに今更と言われそうだが、最中と事後は違うものなのだ。うん。……うん。
「そうね。なんだかんだ言ってもちゃんと喜ばせてくれてるし、悪くはないかな」
「ありがとうございます」
「秋もそろそろ終わりねえ。ずいぶん冷えてきたわ。今年はいつもより寒くなりそう」
「……そうですね」

 頷いて、私は花畑の光景に思いを巡らせる。
 まさしく、秋の終わりを告げる光景を。



*********************************



「枯れてしまいました」
 あれほど咲き誇っていたコスモスが、一気に枯れた。
 最近一気に冷えてきたな、と思ったら、すぐだった。
「一年草だからね。咲けば、枯れる」
「わかってはいても、寂しいものですね」
「そうね」
 素直な同意が返ってきたのは、少し意外だった。
 幽香は私では想像もつかないほど、枯れる花も見てきているのだろうから。
「でも、それが命の循環。長生きすればそれだけ幸せというものじゃないのは、わかるでしょう」
「そういうものですか」
「ものなのです」
 胸を張って、幽香が答える。
 何故か誇らしげに。
「それより、最近はもうすっかり平気みたいね」
「あの花ですか。そうですね。……気がつけば、なんともなくなっていました」

 一斉に枯れたコスモスの中に、例の魔法の花は普通に生き残っていた。魔法の効果が切れたのか、私が強くなったのかは判断がつかない。
 寒くなるとともに、色々な変化が起きていた。
 ……私は、成長していると思っていいのだろうか。

「さて。植え替えましょうか」
「え?」
「今植えている向こう側の花は、早いものでも冬の終わりくらいに咲く花だからね。冬の間何もないのは寂しいでしょう」
 でしょう?
 と、私に微笑みかける。
「だから、こうして」
 ぽん。
 幽香の掌の中に、一輪の花が現れた。
「それは?」
「ウィンターコスモス。冬の初めくらいまでは咲くことが出来る花よ。しばらくはこれで楽しんでちょうだい」
「おお。ありがとうございます」
「うんうん。あなたはちゃんと世話をしてくれるから嬉しいわ。ワスレナグサの芽もちゃんと出てるし」
 ……
 うん。褒められるとやっぱり、私も、嬉しい。
「まあ、育てるのが簡単なものばかりではあるんだけどね。それでも、放置していたら雑草に負けてしまう」
 きゅ。
 手を重ねるように、私に花を渡す。
「今後も信頼していてよさそう」
「頑張ります」
 うん、と幽香は満足そうに頷いた。
「さあ、植え替えましょう。冬の準備の始まりよ」



 翌日の朝。

 あらためて花畑を眺めてみる。
 コスモスに比べるとやや地味な感じもあるが、ウィンターコスモスもずらりと並ぶとやはり美しい。

 さて、今日は雑草はあまり見当たらない。
 そんなにすぐにたくさん生えてくるものでもないから、ある程度抜いた後なら当然なのだが。
 もう魔法の花の影響を受けることもなくなったし、世話自体も慣れてきたし、そろそろすることは少なくなってきた。
 どちらかといえば、平穏に花を眺めて心を落ち着ける時間となっている。寒くなってきて雑草も少なくなってきているし、このまま静かに冬を迎えることになりそうだ。

 ……

 なんて、思っていた。



 さらに数日後。
「結構生えてきてるなあ。……一気にやるか」
 今日も草むしり。
 テンポよくやろう。
 ぬきぬき。


 異変に気付いたのは、予定の半分くらい終わらせたときのことだった。
「ん……?」
 なんだか、少し、暖かいような気がする。
 少しずつ昼に近づいているのだから暖かくなっていくのは当然ともいえるが、そんな自然な話ではない。
 歩いてみてわかる。
 一部の場所が、局地的に暖かいのだ。
 不審に思って、暖かい場所をゆっくりと歩いてみる。背の高いウィンターコスモスの中を潜り抜けながら、地面に注目して。

「……ん」
 やがて、一つの小さな花を見つけた。
 他より明らかに背が低くて遠くからでは見えないもので、また、他の雑草とは明らかに違う。
 そして、以前に私を散々苦しめたあの魔法の花とも違う。

「……」
 嫌な予感しかしない。
 抜いてしまうべきか、それとも――

 それ――と――も

「う……う……?」
 ぶわん。
 ふと、視界が揺れた。
「う……」
 なにか、まずい。
「あ……あ」

 どくん。
 心臓が跳ねる。
 暖かい。空気が。そして、私が。
 まずい。何がまずいって、これは。
 この感覚は。

「ぁ……はぁ……はぁ……」
 力が抜けて、その場にへたり込む。
 最近。
 こんなことばかりだなあ、なんて思いつつ。
 熱くなっている手を、熱くなっている下着の上から、熱くなっている気持ちいいところに伸ばす。

「ふあぁ……ッ!」
 瞬間、ぶる、と震えた。
 ああもう。すっかり準備が出来上がっている。
 こんなのずるい。
 止まるわけないじゃないか。

「う、く、くぅ……う、ぁんっ」
 一度触ってしまえば、もう抵抗する気など起きない。
 負けだ。
 暖かい空気に包まれて、ぐしゅぐしゅと弄り続ける。

「あ、あ、あ――んぅッ!!」

 ……力尽きるまで。



*********************************



「平常心の(略)」
「ですよねー……」



*********************************



「う……は、あ……」
 身構えてさえいれば、ある程度は抵抗できる。
 結局昨日はその一帯の草むしりは出来なかったので、一番危険なところに挑まなければいけなかった。
 だが今日は昨日とは違う。何が来るかはわかっている。
 わかってさえいれば怖くないのだ。
「あ……はぁ……はぁ……」
 ……いや。うん。
 既にもういわゆる下のほうは大洪水というやつではあるわけだが。
 歩くたびに、クる。
 これを……草むしりの間、耐えないといけないというわけだ。

「平常心……平常心……へい……へいほー」
 耐えなければ。
 一度妥協してしまったら、絶対に抜けられない。

 ぐ。
 ぐぐぐ……

「はあ、はあ……はぁ」
 しゃがみこんでしまいそうになるのを、
 手が伸びてしまいそうになるのを、
 必死に堪える。
「耐えろ……自分……」
 だいたい。
 修行とか以前に、こんな場所で昨日のような行為に耽るなど、絶対にしてはならないことだ。
 昨日だってたまたま彼女が来なかったからよかったものの。
 いつ現れるか――
「はあい」
「きたああっ!?」
「あら今日は熱烈な歓迎ね」
 素敵な笑顔で、彼女は現れた。
 なんなの。狙ってるの。
「あ……く、はぁ……だ、め……ぐぐぐ」
 幽香の顔を見た途端、体の反応が強くなる。
「く……ぁ……ん」

 ああああ。
 幽香が見てるのに。目の前なのに。
 冷静に。冷静に。冷静に……

「今日はまた随分と辛そうねえ」
 そんな私の戦いをどこまで把握しているのか。
 幽香は平然としゃがみ込んで、花を見つめる。
「――へえ。今度はこんなの持ち出してきたんだ、あなたのご主人様」
「あ……いかわらず、幽香は平気……なんです……ね、あ、ぅ」
 うらやましい。
 いや、もしかして幽香のそれが修行の成果なのだとしたら、うらやましいなどと言っていてはいけない。私も――
「う――あ、うぅ……!」
 あああ。まずい。
 喋ったせいなのか、何なのか。
 幽香が現れてから、さらに強烈に響いてくる。
「うーん。これはなかなかの見物」
「あ、いや――みない、で……あ、ふ……」
「つんつん」
「ひゃんっ!? あ、あ、だめっ――」
 腕を軽く指で突付かれた。
 それだけで、ぞわぞわと、全身に響く。
「あなたも大変ねえ。気が休まる時間なんてないみたい」
「ぐ――こ、れも、しゅぎょ……」
「じー」
「や、だめ、みないで……ください……っ」
「これも修行。うん」
「ん……ふ……う、ううっ」
 逆手に取られた。
 うう。酷い自爆。

 しかし……本当に、もう……
 我慢ができそうに――
 幽香が見ているという事実だけが、むしろ、心を支えてくれているような気がする。だからといって、見ていてほしいというわけではないのだが。決して。
「ふふ。可愛いわ」
「……っ!」
「――ま、見ていたいのもやまやまだけど、私も暇じゃないのよね。もっと見られたそうだけど、残念だったわね」
「誰……がっ……あ、うう」
「それじゃ」

 幽香はふわり飛び上がって、去っていく。
 ……相変わらず、帰るときはいつも速攻だ。

 ……そして、私の体のほうはといえば、かなり、限界に近い。
 これは、とりあえずこの場所を一度離れて体勢を立て直さないと――

「そうそう」
「!?」
 飛び去ったかと思われた幽香の声が、なぜか、真上から聞こえた。
「いつも苦しい試練を与えられながらも、ちゃんと花畑を維持してくれている偉い妖夢に」

 幽香は、ふわりと降りてきて。
 自然な流れるような動作で近づいてきて。

 ちゅ。

「――!?」
 私の頬に。軽く。口付けをした。
「ご褒美を」
「あ……あ、ゆ……うか……ッ!」

 へたりこむ。
 完全に脱力する。
「じゃ」
 幽香は、優しい優しい笑顔を見せてくれて。
 そしてまた飛んでいく。

 ……
 あ……ああああああ。
 忘れかけていた。そうだ。あいつはそういう――

「ゆ……ぁ……ああああああ、あ――!!」
 弾けた。
 触ってもいないのに、簡単に、飛んだ。
 刀にしがみついて、地面にお尻をついて、びくびくと跳ねる体を支える。

「あ……ふぁ……う、く……っ」
 痺れるような絶頂感。
 軽く、心地よく、まだ続く。
「ああ……あ……」
 頬に触れる。
 まだ残る唇の柔らかい感触。
 まだ耳に残る幽香の声。

「くぅ……ん」
 修行。
 修行。
 修行。

 ……うん。
 ダメだ。

「あ、あ、あ――あううぅッ」
 ますます冷え込んでくる日々。
 その中で私はまだ、熱い戦いを続けることになりそうだった。





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