博麗神社は山の上にひっそりと佇んでいる。
日が落ちて動物たちの多くが活動を休止すると、普段は静寂に包まれた空間となる。人間たちはこの時間になるとあまり来ない。夜になってから来ることが多いのはどこかの吸血鬼くらいのものだったが、その時間にはまだ早い。
だが、時折、静かではあるが、様々な音色がその静寂を破る日もあった。
しゃらん、という薄い金属音。
ぎぃ、ぎぃ、という木の軋む音。
一定のリズムで刻まれる、呼吸音。
「ん、ふ……っ」
そして、抑えながらも漏れ出る、切ないため息。
声の主は博麗霊夢、この神社の主だった。
霊夢は賽銭箱に覆いかぶさっている。顔は赤く、一見すると熱でふらついてこの賽銭箱に倒れこんでしまったのかというように見える。が、少し眺めていれば、様子が違うことがすぐにわかる。
賽銭箱の縁、それぞれ異なる辺を片手ずつで押さえ、体を支えている。辺が交わるところ、角のところに、スカートを巻くりあげ、下着越しに股間を当てて、一定のリズムで小刻みに動かす。
「っ、ぁ、ふ、ぅ……」
強く、弱く、強く、弱く。
痛くないように丸く削られた角に、股間を強く食い込ませ、引いて、またぐっと押し込み、引く。
上下というよりは前後に、小さく、しかししっかりと力を入れて動かす。下着越しの刺激が、女性器の表面をなぞる。ぬるり、と熱い粘液を通して少し奥側まで衝撃を与える。強く食い込ませるように腰を前に出すと、ぷくりと膨らんだ突起が潰れ、そのたびに霊夢の口から微かな声が漏れる。
頑丈に作られてはいるが、木製である賽銭箱は、角への圧力を受けて軋む。さらにその軋みを受けて、中に入っている小銭が少し揺れる。時折小銭同士がぶつかり合う、小さな金属音が響く。
「ふぅッ……!」
音が鳴ると、霊夢は強く反応して、ふる、と体を震わせた。
びくびく、と状態を反らして、顔を上げる。
うっすらと目を開ける。瞳はどこを見るでもなく、ぼんやりと宙を眺める。溶けてしまうかのような、惚けた表情。
少しの間余韻に浸るように動きを止めるが、またすぐに腰を振り始める。そして、熱い荒い呼吸を再開させる。
最初のうちは周囲を気にしながら若干は恐る恐るといった動きだったものが、少しずつ大胆になっていく。動かし方も性器を角に押し付けたまま力の強弱を変えるだけでなく、時には股間を一度浮かせて、叩きつけるような動きが加わってくる。
「んんッ! あ、ぁ、ふ……ッ!」
声もそのうちに、漏れでたものというには大きなものになってきている。
顔を真っ赤にしてひたすらに快楽を求めて腰を振る様子からは、もはや周囲への警戒感など感じられない。
がたがたと、賽銭箱は軋むというより揺れ始める。そうすると、小銭も踊り始める。
小銭の触れ合う金属音を聞く機会も多くなり、ますます霊夢の心を酔わせていく。

霊夢がこの方法によるオナニーを始めたのは、数年前のことだった。
昔から、賽銭の音は好きだった。好きといっても、以前はただ楽しくなる音だというだけだった。
それが性的快感と結びついたのは、たまたま賽銭箱を愛でるように抱きついたときに、この角がちょうどよく気持ちいいものだと知ってからだった。角に股間を擦り付けるとふわふわ浮くような快感が得られるということを知ってからだった。続けるうちに、少しずつ、少しずつ、賽銭の音自体が、興奮を煽る材料となっていった。
今では昼間でも、誰かが賽銭を入れると、その音だけで反応してしまうほどになった。
普段からこのようなやり方をしているわけではない。賽銭箱は重く、簡単には動かせない。
どうしても屋外での自慰行為となってしまうため、そうそう気軽にできるものではない。普段の自慰は普通に部屋で行うようにしていた。ただ、一度賽銭箱の快感を知ってしまうと、やはり他のやり方では満足しきれないものが残るものだった。
不満は、日々蓄積されていく。毎日のように手で慰めていても、奥底の欲は解消されない。いくら激しく熱く指で奥を掻きまわそうとも、何度絶頂を迎えようとも、満たされることはない。そのうちに、昼間でも、掃除中や、場合によっては人と話をしている最中でも、気を抜くと股間を角に擦り付けてしまいそうになる。慌てて我に返って自重する。日々がそんな繰り返しになってくると、もはや耐えてはいられない。
そうして我慢できなくなると、人がまず来なくなる時間、いつもの時間に、霊夢は始めた。
痺れるような、浮くような、甘く強烈な快感を存分に味わう。
固い角が膨れる突起を――クリトリスをこねくり回すごとに、脳に白い衝撃が走る。腰を前後に動かして表皮を刺激すると、膨れ上がった蕾が表皮を押しのけ露出し、また皮の中へと戻る。ぬるりと熱い液で滑ると、くすぐったさにも近い直接的な刺激に、声がまるで抑えきれなくなる。
「あ、ぅ、きもちいい、気持ちいい……ぅっ」
指で同じように包皮を被せたり剥いたりと弄繰り回す自慰は普段でも行っているが、手を使わない分こちらのほうがずっともどかしく、その分、激しく動かす必要があり、普段よりも熱くなってくる。無機物相手に腰を動かしているという興奮もある。同じ刺激なのに、手を動かさないほうがはるかに快感は勝っていた。
愛液はすでに下着を通り抜けて、賽銭箱の角を直接濡らしていた。下着はすっかり透けて、しっかりと性器の形を浮き上がらせていたが、誰が見ているものでもない。もちろん霊夢はそんなことは気にせず、ただまっすぐに快感を求めて腰を振る。
「あ、あ、あ、ああッ、うぁあッ」
登りつめるにつれ、霊夢はさらに体を前傾させていく。
腕で体を支えていたのが、そのうち上半身で賽銭箱に抱きつくような姿勢になり、足を地面から離して、より直接的な刺激を強く得ようとする。
はあ、はあ、と呼吸はさらに熱く激しくなっていく。
「イ、く、あ、ああ、ああああ……」
口はもう声を抑える気もなく、開きっぱなしになる。
がた、がた。賽銭箱が揺れる。
じゅ、ぐちゅ、ずちゅ、と濡れた音まで聞こえるようになってくる。
最初のような押し付ける動きはもう捨てて、完全に腰を角に叩きつける動きになっている。まるで、賽銭箱と性交を行っているかのように。
「あー、あぁー、あああぅー……ッ」
情けない声をただ漏らし続けながら、高みを目指す。
足の指先から感覚が少しずつ消えていく。絶頂を予感させる、甘い甘い痺れ。
賽銭の投入口に顔を当てて、よだれを垂れ流しながら、腰だけを必死に動かす。
じゅる、ずる、じゅぷっ……
「あ、イ、イッちゃ、あ、ああッ」
焦点の合わない目をうっすらと開けて、その瞬間をこの愛しい賽銭箱と共に迎えようと構える。
もう、脳のほとんど全てが、絶頂を得ることにしか向いていない。
――その、残りの僅か。僅かが、霊夢の視線の端に、異物の存在を捉えさせた。
「――ぇ」
見えたものは、まず、リボンだった。
そして、そのリボンが何か服についているものだということがわかり、次いで、当然のことながら、服は人に所属しているものだということに気付く。
あと少し、あと一押しで最高の快感を得られる、その一歩手前で、霊夢はさっと青くなりながら、腰の動きを止めた。
顔を見る前に、そこにあるものがメイド服であり、賽銭箱の前、まさにすぐそこに、メイド服を着た誰かが立っているということに、気付いてしまった。
「――あ……え……あ?」
青ざめながら、顔をゆっくりと上げる。
……カンチガイでも気のせいでもなく、確かに知った顔がそこに、立っていた。
咲夜は、無表情で霊夢を見下ろしていた。
霊夢は卒倒しそうになった。
一瞬目を閉じて、思考の世界に逃げるものの、目を開くと相変わらずの現実。
夢ではない。咲夜はそこにいる。
「あ、あ……あー……その……」
「ああ。いいわ。気にせず続けなさい。あと少しだったんでしょ」
「……ッ」
あまりに落ち着いた咲夜の声。
その言葉に、霊夢はどうしようもなく赤面する。
もうイきそうなところまでいっていたことまで、はっきりと指摘されてしまう。
「う、あ、あの、ち、違うの。これは、違うのよ」
慌てふためいて、霊夢は否定を口にする。
何を否定したのかは本人さえわかっていない、ただの勢いの否定。
「違う? 何が?」
「な、何がって……その……」
「あなたが賽銭箱の角でオナニーしていたことが?」
「……!」
真正面から、直球で言われて、霊夢はもうそのまま沸騰してしまいそうになる。
これ以上赤く熱くなることは不可能だというほどに真っ赤になった顔は、言うことを聞いてくれない。口をぱくぱくと開くが、何の言葉も出てこない。
「それとも私が知らないだけで、巫女が一生懸命賽銭箱の角に性器を擦りつける行為は何か宗教的な儀式なのかしら」
「あ、あーうー……」
責めるでもなく、冷やかすでもなく、淡々とした口調で咲夜は言う。
本気でそう思っているのかどうかすらわからない、読めない。
「だ、だいたい……な、なんで、あんた、いるのよ……」
まったく答えようもなく、霊夢は話題を逸らす方向性に転換する。
「用事があるから。でも今はそんなことはどうでもいいでしょ。中途半端だとあとにも響くし、ほら、続きを」
取り付く島もない。
「つ……続きって」
「大切な儀式」
「うぅー……も、もうあれはいいの、と、とにかく……」
気がついてみれば霊夢はまだ賽銭箱に覆いかぶさった姿勢のままだ。
なるべく自然な仕草でと霊夢が体を起こそうとすると、咲夜の手が霊夢を押さえ込んだ。
「……え?」
「続けなさい」
「……! な、な、何を……」
ちゃりん。
霊夢の目の前で。
咲夜は、賽銭箱に小銭を一つ、投げ込んだ。
小銭の音をすぐ近くで聞いて、びく、と霊夢は震えた。
「続けなさい」
咲夜は続けた。
決して強い口調ではないのだが、手は離そうともしない。
抗えない、抗うことを許さない、そんな迫力を持った声だった。
――とはいうものの、まさか、本当に咲夜の目の前で、改めてやろう、などというわけにもいかない。さっきまで実際していたのだが、それは知らぬが仏だったからこそだ。
「そんな……こと」
かつん……ちゃりん。
咲夜はまた一枚、硬貨を投げ入れた。
その音に、霊夢はまた、ふる、と震える。治まりかけていた欲が、否応なしに刺激され、疼く。
霊夢は再びせりあがってくる快感を堪えながら、顔を歪める。
状況は絶望的だった。咲夜のトーンは、霊夢が本気で続きを始めるまで変わりそうにない。しかも、霊夢の弱点まで正確に見抜いていた。
咲夜は、賽銭の投入口に顔をつけている霊夢に顔を近づけ、耳元に口を寄せる。
「聞こえないの?」
ふ、と耳元に息がかかる。
霊夢の口から、ふぁ、と抑えられない甘い悲鳴が漏れる。
「私は、博麗の巫女が、賽銭箱を相手に一生懸命股間を擦り付けて情けない声を出しながらイくところを見たいって言ってるの。わかったなら――」
ちゃりん。
硬貨が一枚、また、賽銭箱に入った。
「続けなさい」
はあ、はあ、はあっ……
息は荒く、激しい。
霊夢は決して顔を上げず、じっと賽銭箱の中を見つめたまま、股を大きく開いて、一番気持ちいいところを角に叩きつける。
一度は治まりかけた性感ではあったが、絶頂の直前まで上りつつあったこともあり、また軌道に戻るまで時間はかからなかった。
「っ、は、ん、ふ……ッ」
声は、もう何も考えていなかった先程とは違って、限界まで抑えようとする。だが、その限界は決して遠いところにあるわけではないことは、霊夢自身がよく把握していた。脳を少しずつ侵食していくかのような、この悪魔のような快感は、理性など簡単に食いつぶしてしまう。
少し冷えかけていた愛液が、再び熱く燃え滾る。
角の表面を湿らせ、滑りをよくしていく。もはや下着は防波堤の役割を放棄している。
咲夜の視線を感じながら、腰を振る。
恥ずかしくて逃げ出したくなるような気持ちと、このまま天にも登りつめそうなほどの快感がせめぎ合う。
(これは……咲夜に、強制されてるから……仕方なく……)
強制されているから、している。オナニーなんかではない。仕方ないのだ。
そう自分に言い聞かせることで、自暴自棄になってしまいそうな心を繋ぎとめる。
だが、咲夜はもう霊夢を手で押さえつけたりはしていない。それどころか、一言も話さない。気持ちよくなることに夢中になっていると、咲夜の存在を忘れてしまいそうになるのが怖かった。だから、何度も何度も、自分に言い聞かせる。
ぞくぞくと、足元から弱い電気が流れてくるような感覚。
「……ーッ!!」
歯を食いしばって、その流れに耐える。
軽くイってしまったかと思うほど、急激な強烈な波が押し寄せてきた。
「んぁっ、は、はぁ、はぁ……っ」
しかし、まだ終わりではない。遥かなる高みへの予兆に過ぎない。
今声を抑えられたのは本当にぎりぎりの奇跡に近かった。
まだ終わらない。こんなところでは終われない。この目的のためにしっかりと丸く削られた角をさらに深く、ヴァギナの表面に食い込ませる。表面を撫で回すように、上下運動に加えて、回転を加え始める。食い込ませたまま、右に、左に。前に、後ろに。固い木が容赦なく攻め込んでくる。
腰を振るだけでなく、お尻を大きく動かすような動きになり、見た目にはよりエロティックになる。咲夜が見ているのに、と、一瞬だけ思うが、一度動き出し、この攻めを味わい出せば、もはや止めることなど叶わない。
角は決して奥の奥を満たしてくれることはないが、この絶妙の形と固さで、膨れ上がった突起を、熱い液を止め処なく溢れさせ続ける唇を、疲れることなく愛撫してくれる。
「ぅ、あ、あーっ……」
賽銭箱に這いつくばって、股を広げて、ひたすらに腰だけを動かして快感を求める。
もっと。もっと。
これ以上を求めるならば、さらに速度を上げなければ。
「はー、あー、あーーぅー……」
延々と擦り続けるうちに、また、意識は朦朧とし始めていた。
もう体力のほうが先に突きそうなほど、動かし続けている。霊夢はこの異常事態に気付き始めていた。
「あぅ、どう、して、どうしてっ」
何度愛撫を繰り返しても、何度叩きつけても。
溢れ、痺れるような快感は走るのに、まだ頂点が見えない。
「イけない、イけないの……っ」
ほんの少し突起が押しつぶされるだけで眩暈がするほど気持ちいいというのに。最後の壁が破れない。
異常なまでに敏感になっているのに、絶頂がやってこない。
認めたくはないが、今までで最高の快感を味わっているほどだったのに。絶頂でもないのに何度か気を失いそうになったほど、凄まじい性の衝撃を感じているのに。
角を使ったオナニーは、もともと指を使うより絶頂までは遠いことは経験から知っていた。だが、それにしても遠すぎる。今までだったらすでに五、六の山を踏破しているほど続けているのに、いまだ登り続けている。
賽銭箱全体を激しく揺らしながら、角を挿入するほどの勢いで股間を叩きつけ、擦る。
痺れは走るのに、それが最後へのシグナルへと繋がらない。
「あ、あ、あー……ッ!」
「……そう」
そこで。
これまで一言も喋らなかった咲夜が、初めて、静かに呟いた。
「見られているのがそんなに気持ちいいのね」
「ち、違う、違うの、イけないの……う、ぁん……ッ!」
「イきたくないんでしょう。終わりにするのがもったいないから」
「違う、違うわよ……ぅ」
「淫乱ね」
咲夜の容赦のない言葉に。
ぞくり、と霊夢は震えた。
「そんな……私、私……」
「いいのよ、霊夢。顔を上げなさい」
「え……」
霊夢が賽銭箱から、言葉に従って顔を上げると、咲夜は両手でメイド服のスカートをたくし上げていた。
「あなたみたいな淫乱な子は、嫌いじゃないから」
霊夢の視線は、咲夜の大人っぽいレースの下着に釘付けになる。
そこはすでに透けるほどに濡れそぼっており、咲夜の女性器の形をはっきりと浮き上がらせていた。とろりとした粘液は、ふとももの内側を伝うほど溢れている。
「あ……?」
よく見ると、咲夜の顔は僅かではあるが赤くなっていた。
咲夜は呆然と見つめる霊夢の前で、霊夢と対角になる位置を取って――角に、その股間をぴたりと当てた。
ん、と小さなため息を漏らす。
「あ……咲夜……」
「早く、続けなさい。ん……私も、すぐに追いつくから」
「……っ!」
霊夢の脳に、今日最大の白い波が走った。
その言葉だけで。咲夜の行動だけで。
咲夜も同じように、賽銭箱の角にまたがって腰を振り始める。霊夢より背が高い分、自然、より前傾姿勢になる。
咲夜の顔は、霊夢の顔の目の前までやってくる。
「あ、あ、あ」
霊夢は反射的にまた、激しく腰を振り始めた。
「あ、あ、ああっ、咲夜、咲夜ぁ」
「ん……く」
一つの賽銭箱の別々の角を使用した、二人の自慰行為。
霊夢が角に強く押し付けると、揺れた賽銭箱が咲夜を攻める。咲夜が反撃とばかり賽銭箱を揺らすと、霊夢が高い嬌声をあげる。
決してお互いの体に触れてはいないのに、二人で愛撫しあっているかのような錯覚を起こす。
「咲夜、私、イく、イっちゃうよ……ぅ」
「早い、わよ。もう、ちょっと、待ちなさい……」
「ん、く、きゅ……ッ!!」
霊夢は、先程までと打って変わって、今度は何度も襲い掛かる絶頂の波を堪えるのに必死になっていた。
今は、風が肌を撫でるだけでも声が出てしまうほど全身が敏感になっている。
咲夜が追いつくまで動きを止めれば問題ないとわかっているのだが、気持ちよすぎて止められない。イってはいけない、だけど、この快感は捨てたくない。霊夢の欲望が、スピードを落としながらも腰を振らせ続けていた。
ちら、と咲夜のほうを眺めると、しっかりした動きで性器を擦りつけているのが見えた。
他人の角オナニーを見るのは初めてだったが、こんなにも淫らな行為なのかと改めて思い知らされる。相手がただの木の塊だというところが、非常に変態的で倒錯的に見えるのだ。
乱れる咲夜の表情が、さらに霊夢を追い詰めていく。性の喜びに耽る淫らな表情であるにもかかわらず、しかし決して崩れることなく、整った美しい顔立ちを保っている。
「ぅ、あ、あーー……ッ!」
びく、びくん。
霊夢の体が跳ねる。
咲夜の顔を見つめながらきゅ、と股に力を入れると、それだけで飛びかけた。
咲夜は、そんな霊夢の反応にこそ、強く刺激を受けるようだった。霊夢が激しく喘ぐほど、表情を強く歪めるほど、咲夜の動きも息遣いも荒くなっていく。
「咲夜、咲夜、咲夜ぁ、もう、ダメ、無理っ」
「私も……!」
「咲夜もイく? イっちゃう? あ、ああ、ダメ、私――ッ!」
「ん、あ……っ」
もう止まりようがなかった。
霊夢は足元から全身にせりあがってくる衝動に、身構える。
最後に大きくぐい、と角にクリトリスを押し込む。
ぞくぞくぞく、と震える。全身から感覚が消えていく。体中の血液が白いもので満たされる。
「ああ、あ、ぅあ、んんん――ッ!!」
びくん。
大きく跳ねた。
足をぴんと張って、つま先までしっかりと伸ばして、この絶頂をより長く強く楽しむために、股間を擦り続ける。
「うあ、ぁあ、あーッ……」
「んく……っ!」
霊夢が口を開けてオーガズムの真っ最中にある中、少し遅れて、咲夜も静かに達する。
顔を赤く染めて、目を閉じて、歯に力を入れて、大きな波を受け入れる。
「ああ、あー、……ぅ……」
「……っ、ふ……」
「あ、咲夜……咲夜……ん、う……」
がた、と霊夢が完全に崩れ落ちる。
「咲夜、咲夜……ぁ」
「……」
咲夜は波をやり過ごした後、崩れ落ちることなく、静かに霊夢の顔を眺める。
お互いに荒い呼吸をしながら、余裕のある咲夜のほうが、霊夢の髪をそっと撫でた。
「あー……えっと、あの……今日のことは」
落ち着いた空気になったところで、相変わらず頬を、というより顔全体を赤く染めたまま、霊夢がごにょごにょと呟く。
一方で完全に平然とした顔に戻った咲夜は、いたって普段どおりの声で返した。
「大丈夫よ。別に私、あなたより優位に立つつもりはないもの。今回のことを誰かに話すつもりもないし、それを材料に交渉するつもりもないわ」
「う……うん。ありがとう……」
「別に。私はせっかくだから気持ちいいことしたかっただけだから。今日のことはこれっきり。次があることもないし、引きずる必要もないわ」
「……」
霊夢は、安心したような、しかし少し寂しいような表情で薄く笑って、頷いた。
「ありがとうね」
「いいって。楽しませてもらったし。で、用件なんだけど――」
用件は、何やら街のほうで少し異変の気配を感じたとか、そのような内容だった。
霊夢は一応は頷いて聞いてみるものの、内容はまったく頭に入っていかなかった。
聞き終えた瞬間にはもう忘れている。
「じゃね。今日はお疲れ様。帰るわ」
「う……うん。気をつけてね」
惚けたままの霊夢が、上の空で別れの言葉を送る。
……ふう、と咲夜はひとつ大きくため息をついた。
「あなたこそ気をつけてね。しっかり休みなさい」
「うん」
「それと」
ほんの少し。
ほんの少しだけ、咲夜は少し頬を朱に染めた――ように、見えた。
後ろを向いて、ふわ、と飛び立つ。
最後に一言を残して。
「……あなた、名前呼びすぎ」
FIN.
【あとがき】
角オナだけで17KB。
久しぶりのR−18SSでしたがやることはいつまでも変わりません。はい。