「久しぶりね、名雪」
 もうずいぶんと長く会っていなかったような気がする。
 クラスも変わり、さらに香里は国立理系、名雪は私立文系ということもあり学校での接点は全く無くなっていた。
 学校外でも積極的に遊ぶほどの仲だったなら今でも交流はそれなりにあっただろうが、そこまでの「特別」というわけでもなかった。自然な流れとして、あまり会わなくなっていた。
 そして、少なくとも、あのデートの日以来では、これが初めてだった。
「そうだね」
 教室にふたりきり。
 帰る仕度を整える名雪の前に突然香里が現れて、なんとなく挨拶やら世間話などしながら数分間。
 他に誰もいなくなったあたりで、香里は声のトーンを変えて改めて挨拶をしたのだった。
 お互い、意識している。
 このタイミングで香里が名雪に会いに来たのだから、まず祐一の話題は避けられないだろう。むしろそのためにやってきたと考えるのが自然だ。
 名雪としても、一度香里と話をしたいところだった。祐一とのデートとの次の日以来、祐一の態度は微妙に変だった。何かがあった。あったとしたら、それに関与しているのは一人だけだろう。
「……まあ、あんまり回りくどい事をするのもなんだしね」
 香里のほうが、切り出す。
「あたしの事は、相沢君からどこまで聞いた?」
「祐一が香里に告白して……断られた、って」
「なるほどね」
 頷くと、香里は近くの机から椅子を借りて腰を降ろす。
 二人の距離は机一つ分。
「……でも、祐一は香里の事全然諦めてないよ。まだ希望があるみたいだった。……どうしてなの? どうして祐一は終わったはずの香里の事を見つづけていられるの? どうして香里は……祐一を振ったの? 違うよ。完全にフラれたって感じじゃなかった。まだ迷いが残るような返事だったんでしょ?」
 言葉が溢れ出す。

 ずっと思ってきたことだった。
 祐一はフラれたと落ち込んではいたが、それでも心に隙間は全くできていなかった。元気付けるためと、そしてアピールのためにデートに誘った。そして悟ったのは、結局祐一の中で香里の位置付けが何も変わっていないということ。
 ずっと以前、ある時期から、祐一が自分との間に「無難な距離」を置きだしたことを名雪は気付いていた。祐一が時折見せる態度に戸惑いと葛藤を感じ取っていた。
 同じ屋根の下で暮らす上で、自然と雰囲気が出来上がる事もあった。その時は名雪も少し大胆に気持ちを押し出すようにしてみた。祐一はいつも、迷いながら、名雪が詰めただけの距離をそのまま離していた。
 あと一押しもすれば簡単に手に入りそうなところにいる祐一が、ずっと遠かった。
 それでもいつか心を開いてくれるまでゆっくり待とうと思った。何かきっと事情があるのだろうから。恋愛に恐怖心でもあるのかもしれないと。心当たりはあったから。
 そしてずっと――保留されていた。
 香里の事を聞いた時、初めて、祐一が距離を置きだした意味を知った。
 同時に、断られたと聞いて、今までで一番のチャンスを見つけたと思った。
 それなのに、また、保留。
 名雪には自信があった。祐一が少し心の壁を崩してくれれば、もうそこに簡単に入り込む事が出来る。ただ真正面から気持ちを受け止めてくれるだけでよかった。

「でも、何も変わってない。分かったんだ。香里もきっと、距離を離せなかった。祐一と同じように保留したんだよ」
「そうね。あの時はそんなつもりはなかったんだけど、結局あたしも相沢君の気持ちを手放したくはなかったんだわ」
 ふう……と香里がため息をつく。
 机に肘をついて、窓の外を眺める。3階の教室なので空しか見えない。
「友達のままがいいって思ったのにね。恋人なんて甘い関係より今のままで十分気持ちいいからこのままでいいかなって思ってた。恋愛が嫌いなわけじゃない。可愛いって言ってくれた時は恥ずかしかったけど、凄く嬉しかった」
 言いながら思い出したのか、ほんの少し顔を赤らめる。
「……それも、友達でも出来ない事じゃないなんて思ったのよ。あたしにはそれ以上なんて必要ないからって。今のままでいたかったの」
「全部過去形なんだね。――今は、違うんだね?」
 名雪はじっと香里の目を見つめて話す。
 心を全て、読み取るように。
 ――香里は、目を細めて微笑む。
「今もだいたいそう思ってるわ。名雪がいなきゃ、ね」
「……わたし、悪者みたいだよ」
「悪者はあたしのほうに決まってるじゃない。誰が見たってね。……いえ、これからなるのよ。今から名雪に言う言葉で、悪役に」
「……」
 自嘲的な、しかし明確に挑戦的な言葉を受けて名雪は気圧される。
 おそらくその言葉を言うためにここに来たのだろう。
 そんな決意に満ちた香里の表情は――驚くほどに美しかった。
「友達って、今のあたしには凄く都合のいい言葉だった。でも、ただ一つの欠点を見逃していたのよ。友達は……独占できない」
 外を見ていた香里が、ここでしっかりと目を合わせた。
 表情を消す。
「相沢君が、名雪とデートしたなんてあたしに言ったのよ。何のつもりでそんな事言うのかしらと思った。あたしの事好きなんじゃなかったの、って。抑えるのに苦労したわ。……そうなって初めて気付いたのね。もう友達じゃいられないって事」
 理性が友達とか恋人とか都合のいいほうの状態を選ぼうとしても、気持ちは必ずしもそれについてきてくれるものではない。それなら誰も恋愛で苦労はしないのだ。
 私達は恋人同士なんかじゃないけど、貴方は他の誰かと付き合うのはダメ。そんな自分勝手はあり得ない。ただ支配しているだけの状態だ。
「利己的そのものよね。相沢君の気持ちがあたしに向いている事に甘えていたの。今のままにしておけば気軽なままに、一緒に勉強も頑張りあったり、時々は休みの日にも一緒に遊んだり、また可愛いなんて言ってもらえたりするって――思ってたのよ」
 ライバル出現の可能性をまるで考えていなかった。
 ずっと祐一は香里のことだけを追いつづけるものだと思っていた。
 そこが、香里の思い違い。
 名雪という要素の出現が前提から崩してしまったのだ。
「ホントに……ずるいよ」
「ごめんね。相沢君も、名雪も、あたしの勝手で苦しませてしまったわ」
「それで……わたしにはまだ言わなきゃいけない事があるんだよね?」
 お互いに低いトーンで話す中、それでも名雪はしっかりと強い声で言う。
 恨みも悔しさも絶望も悲しみも無く、ただ現実に向き合う強い声で言う。
 香里もまた、引き下がることなく、前に進む。
「あたし、相沢君に伝えるわ。今のあたしの気持ちを」

 名雪は、頷いただけだった。
 もう予想は出来ていたのだろう。覚悟ができていたかどうかまでは本人にも分からないだろうが。
「あたしのほうから一回断ってるんだから、フラれても仕方ないって思ってるけどね」
「……嘘つき」
 名雪の目から見ても、香里の勝算は確実だった。
 例外が出来るとすれば、香里が行動に出るより前に名雪が本格的に祐一を「獲りに」行った場合だろう。祐一はまだ香里の本当の気持ちを分かっていない。もうフラれたんだと強調して、あとは強く名雪が攻撃をかければ、香里が告白する前には既成事実を作ってしまう事は可能かもしれない。
 無論、香里としても、自分が行動に出る前に名雪に話すという事はそういう可能性を残すことになると気付いているだろう。言ったのは、どちらにしても名雪に先に行かれる恐れはあるから牽制のために言っておくという意味が強いかもしれない。
 名雪は、はあ……と大きなため息をひとつついた。
「いいよ。なんとなくこんな展開になりそうな気がしてたし……」
「ごめんね……あたしの事かなり嫌いになったでしょ?」
「なったなった。もうずっと恨んでやるー」
 ぐてー、と机に伏して棒読みで言う名雪。その言葉に重みは全く感じられない。
「だいたいさ、祐一も悪いんだよ。はっきりしないんだから。どっちにしたって1回フラれてるんだから素直にわたしに傾いておけば今頃泣いて悔しがってるのは香里のほうだったのにさー」
 上半身全部を机に載せた格好になっているため、声も微妙にくぐもっている。
 香里のほうからはその表情は見えない。
「……ごめん、ね」
 そっと近づいて、名雪の背中を優しく撫でる。
「……なんか今のタイミングでゴメンって言われると勝利を確信してるみたいでフクザツー」
「あー……えと。そういうつもりじゃ」
 むっくり起き上がってジト目で睨みつける名雪に、慌てて手をぶんぶんと振る。
 香里自身、もう決定事項のように考えていたのだから間違いでもなかったりするのだが。
 名雪はしばらく睨んだ後、ぅーと唸りながらまた力を抜いて今度は肘を机についた。
「まあ、こんな時に言う台詞は……なんだっけ。えーと」
 しばらく頭を捻って何やら考えている。
 ……
 約4秒の沈黙。
「……フツツカモノですが、どうぞよろしくお願い致します」
「誰がよ……」
 かく、と肩を落とす。
 なんだか久しぶりに、こんな会話の応酬をしたような気がした。
 名雪が変な事を言って香里が適度にツッコミを入れる。それが流れというもの。
 香里の緊張も緩む。
 ツッコミも気にせず名雪は、びしっと姿勢を正す。
「それでは祐一を進呈するにあたって、色々と贈る言葉がございます」
「敬語?」
「――まずは、わたしが実は1回祐一にフラれているというお話から」



 デートの待ち合わせ、香里の指定した場所は通学路の途中にある橋。
 特に何も無い微妙な場所だった。不思議に思いながらも今度は遅刻しないように気をつけて、祐一は約束の時間より15分早くに着いていた。
「あら。早いわね。お待たせ」
 香里が着いたのはその5分後だった。
 すっと隣に並ぶ。
 まだ日はそれほど高くまで昇ってはいないが、本格的な夏が始まろうという季節にこの快晴ぶりはずっと立ちっぱなしになるには厳しい環境だった。すぐに会えたのはありがたいことだった。
 ふわりと揺れた香里の髪が祐一の肌を少しくすぐる。
「よく晴れたわね」
 軽く上のほうを見上げながら、橋の手すりを持って香里が言う。
「目的地は天気が関係するような場所なのか?」
「ううん。全然」
 ふふ、と謎めいた笑顔を見せる。
 なんだかこの表情を見るのは久しぶりだった。
「行きましょうか。立ってても暑いし」
 す……っと、香里が手を伸ばす。
「そうだな」
「ええ」

 …………
 ……

「いや……香里が動いてくれないと俺は行き先知らないんだが」
「……何言ってるのよ。今のあたしを見て何か気付かない?」
「へ?」
 祐一は首を傾げる。
 髪型おっけー。
 服装おっけー。
 今日もばっちり美しき美坂香里。
 ――悩む祐一に、香里は業を煮やして顔を朱に染めて小さく叫ぶ。
「もうっ。……手を、繋ぎましょって言ってるのよっ」
「あ」
 あまりに自然な動作で手を差し出してきたものだから全然気付かなかった。
 香里はずっとその姿勢でいる事と、自分の言葉の恥ずかしさに白い肌をどんどん赤くしていく。
 ……耐え切れず、手を引っ込める。
「ま、まあ、唐突だったとは思うけど」
 横を向いて、さっきまで差し出していた手を抱きかかえるように胸元に持ってくる。
「それに、こんな暑い日だしね……」
「香里」
 どこかに言葉を捨てるように呟く香里の言葉を遮って、祐一は一歩側に歩み寄る。
 たった一歩なのに、途端に物凄く接近したかのように香里の存在が体全体を包み込む。それは、名前どおり彼女の香りによるものだったのか。
 ほんの僅かにしか見せる事の無い、無防備な香里の素顔。
 とても愛しかった。
 祐一は黙って、先ほどの香里と同じように手を差し出す。
 香里が顔を上げた。
 瞳の中に意を確認するように、少し潤んだ目で祐一を見上げた。
 そしてまた少し目を伏せて、視線を下げて。
 見えないくらいに小さくはにかんで。
 ……そっと、祐一の右手を取った。


 どう見ても住宅街のほうに向かっている。
 そこに気付くのに時間はかからなかった。
「はい、お待たせ」
 そして、どう見ても今着いた場所は団地の中の1画にある普通の一軒家。
 もっとも、その表札に「美坂」と書いてあることにはすぐに気付いたが。
 祐一は、しばらくぼーっと香里と家とを交互に眺める。
「……忘れ物でもしたのか?」
 もしかして「ちょっと待っててね」とここで待たされるのではないかという考えが脳裏を過ぎる。
 香里は繋いだ手を離すと、まだ少し頬を紅潮させたまま言うのだった。
「今日は、ここでデートするの」
 屈託なく笑う。
 いつものどこか挑戦的な笑みではない。心から素直な笑顔、そう祐一には映った。
 ……恥ずかしがってはいるけれど。
「香里の家、だよな?」
「ええ」
 改めて確認すると、妙に緊張が走った。
 香里とは随分仲良くやってきてはいたが、基本的には学校内だけの話だった。家を見たのも初めてだ。
 確かに、友達、ならば家で遊ぶ事くらい普通なのかもしれないが――
 それは違う、とすぐに気付く。
 香里は今日をしっかりとデートだと指定したのだ。友達として呼んだという意味ではない。
 それに今日の香里は雰囲気からもう、前回の「デート」の時とは明らかに違っていた。
 なんとなく家を見上げる。2階に窓が見えるが、あの部屋が香里の部屋だろうか。
 見上げているだけで、心臓がドキドキと活発になってくる。
 そう、ここは香里の家。中にあるのは香里の部屋。
 目の前にあるのはただの家。建築物に過ぎないのに。
 ――緊張で、胸が痛い。
「緊張しなくても大丈夫よ。……今日は誰もいないから」
「……そ……そうか」
 誰もいない。
 香里と祐一しか、今日はいない。
 ――おそらく香里の事だ、分かってて言ったのだろう。そう言えば祐一がますます意識してしまうだろう事を。
 そしてそう読めてもなお見事に心臓が口から飛び出そうなほどバクバクしている事が、悔しかった。
(落ち着け……)
 落ち着くには深呼吸。小学校の時に習った。
 こっそりと大きく息を吸う――少し高等技術。
 そしてこっそりと大きく息を吐く。
 またゆっくりと吸う――
「……落ち着いた?」
 香里が首を傾けながらひょっこりと下から祐一の顔を覗き込んだ。
 やっぱり小悪魔だった。
「……おかげ様で、体温が急上昇です」
「あら大変。早く涼しいところへどうぞ」
 言うが早いか、香里はすっと体を翻してドアに向かっていった。
 慣れた手つきで鞄から鍵を取り出し、入り口のドアを開ける。
 祐一は踊る胸を抑えながら、どうぞと招く香里に続いてゆっくりと噛み締めるように玄関まで歩いていった。
「いらっしゃい、相沢君。上がって」
 一足先に靴を脱いできちんと揃えてから香里が廊下に立つのを確認すると、祐一も覚悟を決める。
 自分の唾を飲み込む音がやたらに耳に響いた。
 まずは、第一歩。
「おじゃまします」
「はい、どうぞ。……さあ、今日は幸せなデートにしましょ。いっぱいね」
 くるり、と回って香里が背を向けた。
 空気が、変わった。


 リビングの冷房はよく効いた。すぐに涼しくなる。
 勧められるままにソファに腰掛けていると、暑い夏には恒例のよく冷えた麦茶が差し出された。
 本当に、他に誰もいなかった。当たり前だが。
 祐一も、家に女の子と二人きりという状況自体はいくらでも慣れているはずだったのだが。
「……」
 雰囲気や相手やらが変わると何の関係もないことだと実感していた。
「まあ、まずはあたしの全国3位記念ということで、かんぱーい」
「乾杯」
 かちん。
 麦茶の入ったグラスをこつんとぶつけ合う。
 違う漢字の「かんぱい」だと言いたくなったが、ベタすぎるのでやめておいた。
 ぐいっと一気に飲んだ。喉元から差し込まれる冷たさに体がどんどん生き返っていくようだった。
「俺は全然ダメだったけどな……」
「まあまあ。浪人生が入ってきてるんだし、今の時期にこれだけ上位に入れるなら上出来よ」
「俺のレベルではそうかもしれんが」
 祐一は固くなりながら、苦笑する。
 それだと3位など取った香里は一体何なのか。
「今日はそういう細かい話はなし! 相沢君も、おめでとう。ね?」
 香里がにっこりと微笑みかける。
 ……それだけで、確かにどうでもいいことだと思えるようになった。
「そうだな」
 今は、そんな事より、香里と一緒にいられるこの時間を楽しみたい。
 ぐいっと冷たい麦茶を最後まで飲みきった。


「お昼にはまだ早いし……うん、先にするわ。ちょっと待っててね」
 グラスを片付けて、しばらくそのまま二人で隣り合って座っていたりなんとなく黙ってみたり不思議な雰囲気を作ってみたりしていると、時計を確認した香里が立ち上がって祐一に告げた。
 時間は11:00ジャスト。確かに昼食には早かったが――
 香里がリビングを出て、丁寧にドアを閉めると階段を上っていく音が聞こえた。
(……って、もしかして、香里が昼……作ってくれるのか?)
 家に呼ばれたという事は、期待していいのだろうか。
 香里がそういう事がどれくらい得意なのかという話は聞いた事が無い。ただ、香里なら卒なくこなしてしまえそうなイメージだけはある。
 あまり期待すると壮大なオチに引っかかるという可能性もあるのだが。
(……でも、楽しみだな)
 なんだか本当に恋人みたいで。
 なんて考えて、自爆してみたりもする。くらっとした。
 ……ぺちぺちと自分の頬を軽く叩いて落ち着かせてみた。


 香里は、手にたくさんのプリントやら冊子やらを持って降りてきた。
 どさ、とそれをテーブルの上に置く。
 見ると、それらは全て、昔の模試の解答解説冊子、そして香里の成績表だった。中学校時代のもの、小学校時代のものまであるようだ。
 瞬きを何度かして、祐一は目で香里に疑問を投げかける。
 あまりデートに相応しいものには見えないのだが。
 香里は祐一の反対側に、テーブルを挟んで向かい合うように腰を降ろす。
 その目は少し、いつもよりも真剣なものに見えた。
 香里が手元のプリント類から何枚か選び出して、それを祐一に渡す。
 小学校5〜6年の頃の私立中学受験用の模試のようだった。
 不思議に思いながらも、祐一はそれを眺めてみる。まずは小学校5年。一番古いものから。
 ――そこにあったのは、今の香里、とりわけ全国3位などという驚異的な成績を残す香里とは似ても似つかないような平凡な数字だった。県内順位で真中程度である。この近くにある私立中学の名前が志望校として書かれていたが、合格判定はDと告げていた。
 驚きながら、一つずつ時期を進めていく。そこから先は凄まじいペースで香里の躍進を見る事が出来た。
 6年生の最後の模試では、合格判定もAとなっていた。
 祐一が顔を上げる。
 香里はテーブルの上に手を乗せたまま、ようやく口を開いた。
「さて――ちょっと昔話、するわね」



→最終話