第3章:自覚症状について



 恋。
 好きという事。
 どういう事?

「恋っていうのは…その人の事を考えるとドキドキしたり…する事でしょ? あたし別に相沢君の事考えても…そんな」
 名雪の部屋。ここに入ったのも久しぶりだった。もともとそんな何度も来ていたわけでもないが。
 女の子らしい部屋…だとは思う。どうしても目に付く異様な量の目覚し時計を除けば。
 香里がこの話を切り出した時には名雪はぽかん…と意外そうな表情を見せていたが、そのうちすぐに真面目な顔で話を聞くようになった。
 その様子を、必死に言葉を紡ぐ中わずかに残った余裕で眺めて、理解する。
 自分が名雪に相談を持ちかけた理由を。
「香里、恋愛はそんな一括りで言えちゃうような単純なものじゃないんだよ。ドキドキするから恋愛、そうじゃなきゃ恋愛じゃない――それは間違ってる」
 何の迷いも見せず、きっぱりと断言した。
 透き通るほどにまっすぐの目が、香里を正面から見つめる。
「ただ純粋に楽しい時もある、暖かい時もある、寂しくなる時もある。恋っていう一つの感情があるわけじゃないんだよ」
「…名雪は、そういう経験あるのね」
 名雪の口調はどこまでも素直で躊躇いがない。何を思い出して話しているのか。
 その気持ちは実体験からくるものかという問いには、イエスともノーとも答えず、ほんのわずかに目を細めて微笑んだ。

 ああ。なんとなく納得する。
 これが名雪が言っていた、恋をする少女の表情なんだろうか。なんて、綺麗。

 名雪は、可愛いと思う。それもかなり。
 ただ…知り合って2年になろうというのに、そういえば彼女の周りに恋愛話は聞かなかった。
 自分自身がこういった事に全く無頓着な事もあって、今まで気にもしていなかったが。
 仲のいい男子も多いが、本当に普通に仲がいいだけ。誰とでも。
 いや…一人だけ、確かに特別な人が近くにいたか。

「――名雪、もしかして相沢君の事…」
 聞いてはみたが。
 もしイエスの返事が返ってきたらどうするつもりなのだろう。
 そうしたら、今自分がやっている事は…
「昔はね。とっくにフラれちゃったけど」
 なんともあっさりと、名雪は答えた。
 口調に反してその内容は簡単に聞き流す事はできないものだが。
「ふ…フラれたって…? 相沢君が名雪を? でも――」
 とてもそんなふうには見えない。気まずさのようなものも一切感じられない。何の裏も無くただ仲良く笑いあっているように見えるのに。
 にこ、と、その心を読んだように名雪が微笑みかける。
「7年前だからね。祐一はそのことも覚えてないみたいだし」
「7年前って――小学生じゃない。そんな頃から…」
 いくらなんでも早すぎる、と言いかけて、留まる。
 もしかしてそれが普通なのだろうか。普通は小学校くらいから恋愛を経験するものなのだろうか。
 なんだか自分がとても”遅れている”ような気になる。だから、言えない。
「…それで、名雪は今…誰か好きな人とか、いるの?」
 もはや相談からは完全に外れた質問だとは分かっていたが。ただの興味だ。
 名雪にあんな綺麗な目をさせる人がいるのなら、見てみたかった。
「ん? 今は香里が一番だよ」

 ………………
 ………
「………………は…?」
 さすがにその返事はあまりに予想できる範囲からはるか外で。
 思わず間を作ってしまった。
「い、いや、嬉しいけど、そういうのじゃなくて――」
「冗談でも間違いでもないよ。まあ、恋っていうのとはちょっと違うかもしれないけどね」
「ちょっとって」
「だからね、ホントは祐一が憎いの。わたしをフっておいて、今度はわたしから香里まで奪っていくのかーって」
 ふふふ、と笑う。
 憎いと言う割には明るい笑顔だが。
「――…」
 何と返事を返したらいいのやら。
 ただ、分かる。…結構本気だ。マジだ。
「まあ、でも、祐一だから許せるとも言えるかな。香里のほうはまだお悩みかもしれないけど、祐一はもう香里のことしか目に無いみたいだよ。…他の誰かだったら実力で阻止してでも香里の純潔は守らせてもらうつもりだったんだけどね…ふふ」
「………」
 無言でむせた。
 いや、純潔という単語もだが、やはり、祐一はもう――という辺り。
 というか言葉の後半は敢えて気にしない方向性で。
「ねえ…名雪」
「そうだよ。祐一は完全にラブラブだよ。香里がどう動くかまだ分からないけど、そろそろ覚悟は決めておいたほうがいいんじゃないかな? 心の準備をね。あ、言っておくけどわたしだって香里への愛じゃ負けてないからねっ」
 ――あくまで最後の言葉は気にしない方向性で。
 覚悟。心の準備。
 何をしたらいいのかさっぱり分からない。
 何を覚悟したらいいのかすら分からない――

「あたし…まだ、分からない。本当に相沢君の事好きなのか」
 それが、今唯一分かっている本音。
 分からないということが、分かっていること。
「――焦る必要はないよ。でも、香里ももう、近いところまでたどり着いていると思う。本当に恋愛できない人は…そんな目は出来ないと思うから」
「……」
 また。そういう名雪の目こそ、少し前に見せた透き通るような綺麗な目。
 自分も同じなのかどうかは知らないが。

 ただ――一つ、迷いは消えた。
 否定ばかりしないで、ゆっくり一人で考えてみようと。
 名雪が言ったのだ。もう近いと。それなら本当に近いところまで来ているのだろう。
 もう、相談ばかりしている段階じゃない。





 第4章:ライバルの存在について



 ちょっと真面目な話。
 北川潤と相沢祐一――この二人の間で真面目な会話が交わされた事など過去数回あるかないか。
 つまり、今はその貴重な数回の一回ではあった。

「それでお前ら、いつまでこんな状態のまま続ける気なんだ?」
 北川のほうから切り出した。
 昼休みの教室で。
「…何がだ」
「予想つくだろ。相沢と…香里の事だよ」
 祐一の質問返しも、ある程度は予想できているという声音のものだった。
 だから北川の言葉の中身は驚くことでもない。なんとなく、そろそろだろうなと思っていた。
 だが、それにしても――
「――”香里”?」
 怪訝な顔で聞き返す。聞き間違いでは無い。確かに。
 そんな祐一の様子に、ああ、と少し得意そうに北川は笑って返した。
「相沢もそう呼んでいるだろ? 本人にも許可は取ったし。いい名前だよな、香里って」
 楽しそうに。嬉しそうに。
 なるほど。今日は妙に強気な感じがすると思えば、それが原因だったか。納得する。
「………そうか」
「なんだ、相沢。何か言いたそうだな?」
「別に。嫉妬しているだけだ」
 さら、と。
 あまりに躊躇無く言ってのけた祐一に、思わず北川のほうが固まる。
 …しばらく何にも言う事が思い浮かばず微妙な沈黙が流れたが、数秒もたって、北川はふと肩の力を抜いて苦笑した。
「…正直者」
「お前の態度と同じくらいにはな」
「へーへー。そーですか」
 まあ、むしろそう真っ直ぐ来てくれたほうが話もしやすいというものだ。微かに身構えていた北川は完全に緊張を解く。
 少なくともこの一言で祐一の心は判明したのだし。
「で、答えは?」
 祐一が確かに香里に想いを寄せているのなら、現状の中途半端な状態にずっと甘んじていられるわけが無い。

 いつまでこんな状態を。言い換えれば。
 ――いつ、告白するのか。

「正直な話な」
 さほど間もおかず、即答と言ってもいい早さで祐一は口を開いた。
「俺は何かきっかけがないと行動するのが苦手なんだ。こう見えても結構シャイでな」
「そんな性質の悪い冗談はどうでもいいんだが。面白くないぞ」
「…かなり本気のつもりだったのに」
 あっさりと反論を喰らって、祐一は一人唸る。
 それほど気にしたという様子でも無さそうだが。
「まあ、でも、きっかけは少しできたかな。実際。北川と栞のおかげだ」
「俺と――栞? 誰だ?」
「香里の妹」
 ああ、そういえば名前もまだ聞いたこと無かったのかと、そのとき初めて気付く。
 不覚にも、また一つ差を感じてしまった。
「この前、一緒に病院に行くのを避けられた。そしてその日に電話で謝られた。栞が何か言ってくれたらしいな――まあ、それが実際一番変わったことだ。今香里が悩んでいるのは俺にも分かる。間違っても俺がその相談に乗ることはできない悩みだ」
 淡々と話す。
「焦ってもいい事はない。だからゆっくりと何か結論を出すまで待ってようと思ってた。それでもしまた避けられるような結果になったとしたら…またその時考えようくらいに思っていた。ついさっきまでな」
「…さっきまでということは、今は違うんだな?」
「言ったろ。北川のおかげだ。お前が香里なんて呼んでくれたもんだから、燃えた。それだけだ」
 本当に、正直者だ。
 祐一を動揺させようというつもりでわざと目の前で「香里」と呼んだだけだというのに、まさかここまでストレートな反応を見せるとは。
 計算外の展開に心の中で舌を打つ。
 まだ、相沢祐一という男を理解はしきっていなかったらしい。
「…告白するのか?」
 今の言葉を解釈すれば、そういうこと。それもすぐに行動する気ではないだろうか。
「そのつもりだ」
 簡潔に答える祐一。
「いつ?」
「さあな。早ければ今日の帰りの途中か、病院帰りか」
 早い。本当に早い。
 もしかしたら祐一なりに焦りを感じているのかもしれない。ライバルの急接近の兆しに。
 まるで恋愛慣れしていない相手の場合、自分が明らかに優位だと錯覚しているうちに横からひょい、と奪われる――なんて話はよく聞くものだ。
 この場合北川が接近の傾向を見せたのは間違いないが、そうでなくても美坂香里というのは文句無く男女共から広く慕われている。ライバルは多い。
 …二人とも、まさかもう一人すぐ身近にも敵がいるという事は想像もしていないだろうが。
「分かった。ま…頑張れよ」
 口を突いて出た言葉は応援の言葉。
 もっとも、考えている事は全く違っていたが。
 その言葉に、祐一は初めて笑みを浮かべた。明るい笑みというよりは、悪巧みを思いついたような。
「心にも無い言葉、ありがたく受け取っておく」
「そう言うなよ…俺だって今みたいな中途半端な状態よりはいっそなんとかなっちまったほうがすっきりするもんだ。実質決着のついている勝負でも可能性はまだ残されている…そっちのほうがよっぽど残酷だ」
 そうだろ?、と言外に同意を求めて。
 祐一は、そういうもんか、と軽く聞き返して。
 北川はそうだと答えた。





 第5章:心の尺度について



 なんて言っておきながら。


「どうしたの、北川くん。…何か思いつめたような顔して」
「ん…俺、そんな顔してたか。参ったな」
 はは、と自分に苦笑する。
 放課後。
 10分でいいからと適当に人気のない所…思いついた場所がこの屋上前の階段だったわけだが、連れ出したのはいいがどうやら自分が思っている以上に緊張しているらしい。
 香里は首を傾げる。
「いや、ここ数日何か悩んでいたみたいだが――解決したのか? 今日は久しぶりに表情がいい」
 それは、朝から気付いていた事だった。
 何か悩み事――なんて言い方をしなくても、昼の祐一の話のおかげである程度の想像はついていた。
 それが解決したというのなら。
 もちろん、この事は祐一は気付いていたのだろうが。
「…そう」
 今度は香里が照れたように少し目を伏せる。少し笑う。
「あたしってそんなに表情に出るタイプだったのね。それとも名雪や北川くんが特別に鋭いのかしら?」
 答えてはいないが、その言葉は明らかに肯定していた。
 恥ずかしそうな表情がまた全てを表現しているようで。
「もしかして、それを心配して声をかけてくれたの?」
 見つめる瞳に、昔のような冷たさは少しも残っていなくて。
 その冷たさがまた魅力だったことも思い出して。
 そして、今の彼女を見て、今更の事を確信する。目の前にいる彼女が、今でも一番好きな美坂香里であることを。
 なんて。
 香里の疑問の声を聞きながら、北川は、全くタイミングのズレた事を考えていた。
「それは、ついでだな。もっと大切な事を言おうと思ってた」
 いや――ズレてはいない。むしろ、今こそ一番大切なことだ。
「大切な事?」
「ああ。…香里」

 改めて名前を呼ぶ。
 香里らしい、素敵な名前だと思う――というのは多分ただの贔屓目のようなものなのだろう。
 今から言う事は、ずっと言いたかった事だ。
 半年前にももう言っても良かったはずの言葉。今になってしまったのは、失敗と言うしかない。
 そう、少なくとも想いを寄せた期間の長さでは、彼に勝っている。
 中途半端に長くなってしまったのが敗因だったのかもしれない。タイミングを逃してしまった感は否めない。
 どっちにしても…妹という要素を入手できなかったのだから変わりは無かったのかもしれないが。
 どこで間違っていたのか。運が無かっただけなのか。

 ――なんだろう。こんな時に気付くような事でもないはずなのに。さっきから脳裏に走る思考は完全に負けを認めている。
 これから告白しようというのに、今、そんな事を考えていた。


 きっかけは何だっただろう。いや、しっかりと覚えている。
 日直で一緒になった。日誌のことで話をして、誰もが名前を知っている校内一の優等生の素の表情を知った。
 それだけだ。


「俺な、香里のことずっと前から好きだった。気付いてなかっただろうけどな、ずっと」




 悪い、10分だけ香里借りてく。
 また一緒に掃除も終わって、もう何の用事もないと香里と一緒に帰ろうとした祐一が北川から聞いたのはその一言だけだった。
 軽く言った…つもりだったのだろう、本人は。
 秘められた決意は表情に表れていた。
「…やる事が早いな、まったく」
 さすがに苦笑する。止めたほうがいいだろうかと考える隙もなかった。
 とりあえず、教室で待つ。
 北川が本当に言うのかどうか知らないが、戻ってきたときの香里の顔を見るのが若干不安ではあった。最初になんて声をかけるのが正しいのか。
「祐一」
 と、考えていると、机の前に名雪が現れた。
 にこにこと、いつもの笑顔で。
 無言で顔を上げる。何か用事か、と無言で次の言葉を待つ。
 名雪は、ただじっと祐一の顔をしばらく眺めた。
「………」
「………」
 結果、意味の無い沈黙がしばらく続く。
 何かを探るように祐一を見つめる名雪と、心ここにあらずの祐一と。
 次に口を開いたのは、やはり名雪だった。
「あのね、祐一」
「…おう」
「香里の手って小さくてふわふわしててちょっと冷たくて気持ちいいんだよ」
 ――また沈黙が流れた。
 名雪は何か嬉しそうな口調で言った。
「………はい?」
「髪もね、天然ウェーブで不思議な手触りがあるんだよ。太陽を浴びるとなんだか自然の恵み、って感じの香りがして」
「…いや、いきなり何を」
「まだ体操服は見た事無いと思うけど、脚もすーっごく綺麗なんだよ。太股から膝、ふくらはぎ…あのラインは天性の賜物なんだろうね。それにすごくふにふにって柔らかいの」
「………」
 ツッコもうと思って、思わず真剣に聞いてしまう。
 具体的な描写は想像をかきたてずにはいられない。普段は見えない部分が脳の内部で自動的に補完されて…ふにふに――
「って、そうじゃなくてっ」
 ぶんぶん。頭を振る。
 いかにもやましい想像をしていましたと言わんばかりの仕草をわざわざしてみせるあたりに若干動揺が現れているか。
「いきなり何なんだ一体っ」
「祐一、香里の事好き?」
「……え?」
 また唐突だ。
 話の繋がりが分かり辛い。
 ただ、名雪は相変わらず笑顔のままだが、その問にはちゃんと答えてねという押しが感じられた。
「香里のこと、好き?」
 繰り返す。
「え…あ……そうだな…」
「……」
 じっと見つめてくる視線。
 まだ少し混乱する祐一は、詰まった返事を返したが。
「…ああ。好きだ」
 素直に、答えていた。
「どれくらい好き?」
 名雪はたたみかける。事情は分からないが、どうも容赦する気は無さそうだ。
 また悩む。
「…どれくらいと言われても」
「――そう。ダメ。不合格」
「………へ?」
 唐突に少し不機嫌に表情を厳しくした名雪が、きっぱりと何やら聞き逃せない発言をした。
 間髪置かず続ける。
「好きかって聞かれたら大好きだって迷わず答えてくれるくらいじゃないとダメ。わたしなら答えられるよ。だから、わたしの勝ち。今の祐一には香里は渡せないな。もったいないもん」
「…え………え? え??」
 ますます混乱する祐一。
 渡せない、と言った。名雪が香里を。どうして。
「北川くんにだって勝てないかも知れないよ。ね、祐一。香里の事を好きだって人は祐一だけじゃないの。いっぱいライバルを蹴っちゃうことになるんだよ。それは悪い事じゃなくて、恋愛には仕方の無い事だけど…だったら”好き”の深さで他の誰にも負けないようにしないと。ライバルたちは諦めきれないかもしれないよ?」
「いや、待て。……負けているつもりはない。さっきのだってちゃんと言えることが想いの深さとは限らないじゃないか」
「うん。分かってる。だけど…今はこれしか測る方法が無かったから、とりあえずね。それに…やっぱりこんな時でもすぐに大好きだって言えるくらいに自分の想いに自信を持って欲しいかな。わたしとしては。自己満足なのは分かってるけど」
 また、元の明るい笑顔に戻る。
 ともかくも一度、結論は言った。
「そういうわけで、今の時点ではわたしの勝ち。香里の心は変えられないみたいだけど、そう簡単に祐一に全部渡しちゃうつもりは無いからね」
「…わたしの勝ちって、名雪…お前――」
「言ったでしょ。わたし、香里のこと好きだよ。大好きだよ。だからまだその言葉に躊躇うような祐一は認めない」
「………」
 少し、信じがたくて。
 いや、名雪の言う「好き」はもちろん祐一のそれとは質が異なるのだろうが、それにしてもここまで真剣に香里の事を想っているとは知らなかった。
 
 でも…間違い。
 それは間違っている。

「俺だって――名雪が思っているよりもずっと、こんな一言で言うのがもったいないくらい、香里の事大好きだ」
 だから名雪の言葉は間違っている。
 やっぱり、唐突に聞かれて言えるかどうかだけで決められては困る。
 名雪は柔らかく微笑んで…綺麗な、澄んだ目を祐一に向けた。
「…うん。知ってる。本当は知ってた。ごめんね。わたし、言葉がやっぱり一番信用できるから」
 ガラガラと。
 教室の扉が開いた。香里が立っていた。北川の姿は無かった。
 真っ赤な顔を少しうつ伏せにして、立っていた。
「あ………」
 2人しかいない静まった教室に、祐一の呆けた言葉が響いた。


 変則的な形とは言え、10分の間に2人から告白されたのはさすがに初めての経験だった。


 第6章〜